アジスロマイシンの年2回、4年間の集団配布により、マクロライド系抗菌薬のみならず、マクロライド系以外の抗菌薬の耐性遺伝子が増大する可能性があることが、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のThuy Doan氏らが実施したMORDOR試験の補助的調査で示された。研究の詳細は、NEJM誌2020年11月12日号に掲載された。サハラ以南のアフリカでは、就学前の子供へのアジスロマイシンの年2回、2年間の配布により、小児死亡率は低下するものの、マクロライド耐性の増大という代償を要することが報告されている。また、より長期の年2回アジスロマイシン投与が、体内の抗菌薬耐性遺伝子の集積場所である腸レジストーム(gut resistome)に影響を及ぼすかは明らかにされていないという。
4年投与の腸レジストームへの影響を評価するクラスター無作為化試験
研究グループは、アジスロマイシンの年2回の配布を4年間受けた小児の腸レジストームを調査する目的で、MORDOR試験の補助的研究としてクラスター無作為化試験を行った(Bill and Melinda Gates財団などの助成による)。
本試験には、MORDOR試験が進行中のニジェールで、同時試験として30の村落が登録された。生後1~59ヵ月の小児全員が、6ヵ月ごとに48ヵ月間アジスロマイシンを集団配布され、経口投与される群またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。
腸レジストームを解析するために、ベースライン、36ヵ月、48ヵ月の時点で直腸スワブが採取された。これらの検体を用いて、メタゲノミクスに基づくDNAシークエンシングにより、耐性遺伝子の決定因子の評価が行われた。
主要評価項目は、48ヵ月の時点におけるアジスロマイシン群のプラセボ群に対する遺伝学的マクロライド耐性因子の比とした。
β-ラクタム系の耐性因子も2.1倍に
24ヵ月の時点で1つの村落が試験を中止した。48ヵ月の期間全体における6ヵ月ごと計8回の投与の平均(±SD)服用率は、アジスロマイシン群(14村落)が83.2±16.4%、プラセボ群(15村落)は86.6±12%であった。ベースライン、36ヵ月、48ヵ月の時点を通じて、1村落当たり37±6人の小児から直腸検体が得られ、全試験期間中に3,232検体が採取された。
48ヵ月後の解析にはアジスロマイシン群の504検体(平均年齢31ヵ月、女児45%)とプラセボ群の546検体(32ヵ月、47%)が、36ヵ月後はそれぞれ513検体(31ヵ月、45%)と554検体(30ヵ月、46%)が、ベースラインは554検体(31ヵ月、48%)と561検体(31ヵ月、46%)が含まれた。
ベースラインのマクロライド耐性因子は両群で同程度であった。投与開始後のマクロライド耐性因子は、アジスロマイシン群がプラセボ群よりも多く、36ヵ月の時点で7.4倍(95%信頼区間[CI]:4.0~16.7)、8回の投与が終了した48ヵ月の時点では7.5倍(3.8~23.1)であった。
また、アジスロマイシン群では、36ヵ月の時点でマクロライド系以外のいくつかの抗菌薬の耐性因子が顕著に増加しており、たとえばβ-ラクタム系抗菌薬の耐性因子は2.1倍(95%CI:1.2~4.0)であった。これら36ヵ月の時点で耐性因子が増加していたマクロライド系以外の抗菌薬は、48ヵ月の時点では耐性因子がわずかに減少しており、いずれも未補正の95%CIの下限値が1未満であった。
著者は、「耐性の調査は、あらゆる薬剤の集団配布プログラムの本質的な要素であり、メタゲノミクスを用いたアプローチは耐性調査に有用な可能性がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)