イングランドではCOVID-19パンデミックを機に、研究者が全国の電子健康記録(EHR)にアクセスできるように、データリソースが改められた。パンデミック当初は認可を受けた研究者であっても、全国のEHRにアクセスはできず、医療や公衆衛生政策をサポートするための分析ができなかったからだという。データセキュリティーとプライバシーを確保し、国民の信頼を損なうことなくCOVID-19と心血管疾患に関する全国的な研究を可能とした新たなEHRのリソースについて、英国・ケンブリッジ大学のAngela Wood氏らがBMJ誌2021年4月7日号で報告している。
全国民の健康関連情報にアクセス可能な、新たなデータリソースを構築
新たなデータリソースは、NHS Digitalが構築した信頼できる研究環境内で、イングランドの全健康関連施設からの個人レベルの記録にアクセスできるというものであった。具体的には、プライマリケアからのEHR、病院エピソード(入院、外来、救急救命)、死亡レジストリ、COVID-19検査施設の検査結果、地域薬局の調剤データなどであり、さらに今後は専門家による集中治療、心血管系の監査記録、病院の電子処方、COVID-19ワクチンデータを含むことが計画されており、イングランドのNHS一般開業医に登録の2020年1月1日時点で生存する5,440万人のデータが集約されるに至った。
研究グループはこの新たなデータリソースを使って、2020年1月1日~10月31日における、確認および疑われたCOVID-19診断記録、典型的な心血管症状(脳卒中または一過性脳虚血発作[TIA]および心筋梗塞)の発生、全死因死亡を評価した。
心血管イベントとCOVID-19の関連はもとより幅広い研究も可能に
リンクされたコホートには英国人の96%以上が含まれ、全国の健康関連施設の個人レベルのデータを集約することで、全人口の約95%の年齢、性別、民族性に関するデータを網羅できた。
脳卒中/TIAの診断歴のない5,330万人において、2020年1月1日~10月31日(評価対象期間)の初発脳卒中/TIA発症者は9万8,721人だった。そのうち30%がプライマリケアのみで記録されており、4%が死亡レジストリのみの記録だった。
心筋梗塞の診断歴のない5,320万人において、評価対象期間の心筋梗塞発症者は6万2,966人だった。そのうちプライマリケアのみで記録されていたのは8%で、死亡レジストリのみの記録は12%だった。
合計95万9,470人に、COVID-19と確認または疑いの診断記録があった(プライマリケアデータ71万4,162人、入院記録12万6,349人、COVID-19検査施設の検査データ77万6,503人、死亡レジストリの記録5万504人)。このうち58%がプライマリケアとCOVID-19検査施設の検査データ両方で記録されていたが、プライマリケアのみで記録されていたのは15%、検査施設の検査データのみで記録されていたのは18%だった。
これらの結果を踏まえて著者は、「この全国民を網羅したリソースは、主要な特性の完全性を最大化するために、また心血管イベントとCOVID-19の診断を確認するうえで、健康関連施設の個人レベルのデータを結び付けることの重要性を示すものであった」と述べるとともに、「今回構築したリソースは当初、COVID-19と心血管疾患の研究をサポートし、臨床ケアと公衆衛生に利益をもたらすことや医療政策への情報提供のために開発されたが、さらに幅広い研究を可能とするだろう」とまとめている。
(ケアネット)