脳卒中のリスク因子を持つ集団において、脳卒中の予防を目的とする植込み型ループレコーダ(ILR)による心房細動のスクリーニングは、心房細動の検出と抗凝固療法の開始をそれぞれ約3倍に増加させるものの、脳卒中や全身性動脈塞栓症のリスク低減には結び付かず、大出血の発生も抑制しないことが、デンマーク・コペンハーゲン大学病院RigshospitaletのJesper Hastrup Svendsen氏らが実施した「LOOP試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2021年8月27日号に掲載された。
デンマークの4施設の無作為化対照比較試験
研究グループは、心房細動のスクリーニングと抗凝固療法が、高リスク集団における脳卒中の予防に有効かの検証を目的に、医師主導の非盲検無作為化対照比較試験を行った(Innovation Fund Denmarkなどの助成を受けた)。本試験には、デンマークの4施設が参加し、2014年1月~2016年5月の期間に参加者のスクリーニングが行われた。
対象は、年齢70~90歳、心房細動がみられず、少なくとも1つの脳卒中リスク因子(高血圧、糖尿病、脳卒中の既往歴、心不全)を有する集団であった。
被験者は、ILR(Reveal LINQ、Medtronic製)によるモニタリングを受ける群または通常治療を受ける対照群に、1対3の割合で無作為に割り付けられた。ILR群は、6分以上持続する心房細動エピソードがみられる場合は抗凝固療法が推奨された。
主要アウトカムは、脳卒中または全身性動脈塞栓症の初回発症までの期間とされた。
主要アウトカム:4.5% vs.5.6%、大出血:4.3% vs.3.5%
6,004例が登録され、ILR群に1,501例(25.0%)、対照群に4,503例(75.0%)が割り付けられた。全体の平均年齢は74.7歳、2,837例(47.3%)が女性であり、5,444例(90.7%)が高血圧であった。フォローアップが完遂できなかった参加者はいなかった。
フォローアップ期間中央値64.5ヵ月(IQR:59.3~69.8)の時点で、1,027例が心房細動と診断された。このうち、ILR群は31.8%(477/1,501例)と、対照群の12.2%(550/4,503例)に比べ有意に高率であった(ハザード比[HR]:3.17、95%信頼区間[CI]:2.81~3.59、p<0.0001)。
また、1,036例で経口抗凝固薬の投与が開始された。このうち、ILR群は29.7%(445例)であり、対照群の13.1%(591例)と比較して有意に割合が高かった(HR:2.72、95%CI:2.41~3.08、p<0.0001)。
主要アウトカムは318例(脳卒中315例、全身性動脈塞栓症3例)の参加者で発生した。このうち、ILR群が4.5%(67例)、対照群は5.6%(251例)であり、両群間に有意な差は認められなかった(HR:0.80、95%CI:0.61~1.05、p=0.11)。
一方、大出血は221例の参加者で発現した。このうち、ILR群が4.3%(65例)、対照群は3.5%(156例)であり、両群間に有意差はなかった(HR:1.26、95%CI:0.95~1.69、p=0.11)。
著者は、「ILRにより心房細動の検出率と抗凝固療法の施行率が大幅に増加したにもかかわらず、脳卒中と全身性動脈塞栓症の発現が抑制されなかったとの知見は、すべての心房細動がスクリーニングに値するわけではなく、スクリーニングで検出されたすべての心房細動患者が抗凝固療法の恩恵を受けるわけではないことを示唆している可能性がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)