左室駆出率(LVEF)の低下が認められる心不全患者において、人工知能を用いたクラスタリング法は、β遮断薬の投与がもたらす予後に関して、洞調律の心不全のうち効果が不十分な集団や、心房細動を伴う心不全のうち死亡率が低い集団などの予測が可能であり、この手法は有害な転帰の回避につながる可能性があることが、英国・バーミンガム大学のAndreas Karwath氏らcardAIcグループの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2021年8月27日号に掲載された。
9試験の患者データを統合、階層的クラスタリング法で解析
研究グループは、新たな人工知能を用いたアプローチは、併存症の多次元およびより高次元の相互作用を適切に評価し、洞調律や心房細動を有する心不全患者において、β遮断薬の有効性が異なる集団の分類が可能との仮説を立て、これを検証する目的で機械学習を用いたクラスター分析を行った(英国医学研究審議会[MRC]などの助成による)。
β遮断薬に関する9件の二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験の個々の患者データが統合され、これにニューラルネットワークを用いた変分オートエンコーダおよび階層的クラスタリング法が適用された。
追跡期間中央値1.3年における全死因死亡が、intention to treat法で評価され、心電図上の心拍のリズムで層別化された。これまでは研究者の裁量に任されることが多かった集団(cluster)および次元(dimension)の数が客観的に選択され、階層的クラスタリング法で反復的に検証され、さらに試験の1つ抜き法(leave-one-trial-out)を用いて外的妥当性の反復的検証が行われた。
日常診療での有用性を評価する無作為化試験が必要
LVEFが50%未満の心不全患者1万5,659例(年齢中央値64歳、女性24%、LVEF中央値27%)が解析に含まれた。このうち洞調律の心不全患者が1万2,822例、心房細動の心不全患者は2,837例であった。
洞調律の心不全患者では、全死因死亡に関して、全体としてプラセボと比較したβ遮断薬の利益が示され(補正後オッズ比[OR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.67~0.81、p<0.001)、各集団のORの範囲は0.54~0.74であった。一方、症状が重度でない高齢の洞調律心不全の集団では、β遮断薬の有効性に有意な差は認められなかった(OR:0.86、95%CI:0.67~1.10、p=0.22)。
心房細動がみられる心不全患者では、5つの集団のうち4集団で、プラセボと比較したβ遮断薬の中間的な有効性が一貫してみられた(全体のOR:0.92、95%CI:0.77~1.10、p=0.37)。一方、死亡リスクは低いがLVEFが平均値と同程度の若年心房細動の集団では、β遮断薬の投与により死亡率が有意に低下した(0.57、0.35~0.93、p=0.023)。
すべてのモデルで、クラスタリング法の頑健性と一貫性が確認され(無作為割り付けとの比較のp<0.0001)、9件の独立の臨床試験の全体で、クラスターメンバシップ(cluster membership)の外的妥当性が検証された。
著者は、「人工知能を用いたクラスタリング法は、複数の併存症を組み込み、同時に調整することが可能であり、一般的な治療への応答をより精緻に層別化できるため、有害な転帰の回避につながる可能性がある。とくに心不全のような、高額な医療費や不良な患者QOLの主な要因となっている疾患の予後の改善において、この手法が日常診療で有用かを評価するために、無作為化試験による前向きの評価が求められる」としている。
(医学ライター 菅野 守)