認知症の焦燥性興奮にミルタザピンの効果は?/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2021/11/09

 

 ミルタザピンは、欧州で高齢者や認知症患者に最も一般的に処方されているノルアドレナリン作動性/特異的セロトニン作動性抗うつ薬である。英国・プリマス大学のSube Banerjee氏らは、「SYMBAD試験」において、認知症患者の焦燥性興奮の治療におけるミルタザピンの効果について検討し、プラセボと比較して有効性は認められず、確定的ではないものの死亡率を高める可能性があることを示した。研究の詳細は、Lancet誌2021年10月23日号に掲載された。

英国の二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験

 研究グループは、認知症患者の焦燥性興奮の治療におけるミルタザピンの有効性と安全性の評価を目的に、英国の国民保健サービス(NHS)下の26の施設で二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験を行った(英国国立健康研究所[NIHR]医療技術評価[HTA]プログラムの助成を受けた)。

 対象は、非薬物療法に反応しない焦燥性興奮がみられるアルツハイマー型認知症(probableまたはpossible)で、コーエン・マンスフィールド焦燥評価票(CMAI)スコアが45点以上の患者であった。

 被験者は、通常治療と共にミルタザピン(15mg/日から開始し45mg/日へ増量)またはプラセボの経口投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。

 主要アウトカムは、12週時のCMAIスコアで評価した焦燥の軽減とされた。

認知機能やQOL、介護者負担にも差はない

 2017年1月~2020年3月の期間に204例が登録され、ミルタザピン群に102例(平均年齢[SD]82.2[7.8]歳、女性75%)、プラセボ群に102例(82.8[7.7]歳、58%)が割り付けられた。ベースラインの平均(SD)CMAIスコアは、ミルタザピン群71.1(16.4)点、プラセボ群69.8(17.1)点だった。

 12週時の平均CMAIスコアは、ミルタザピン群が61.4(22.6)点、プラセボ群は60.8(21.8)点であり、両群間に有意な差は認められなかった(補正後平均群間差:-1.74、95%信頼区間[CI]:-7.17~3.69、p=0.530)。また、6週時の平均CMAIスコアにも差はなかった(61.4[23.5]点vs.60.0[19.9]点、補正後平均群間差:-0.55、95%CI:-6.18~5.08、p=0.848)。

 12週時の認知機能(標準化MMSE)、QOL(DEMQOL、DEMQOL-proxy、EQ-5D)、神経精神症状(総NPIスコアなど)にも、両群間に差はみられなかった。

 また、介護者のアウトカムは、12週時のZarit介護負担尺度(家族介護者が対象、ミルタザピン群で負担が大きい、p=0.020)を除き、6週時のZarit介護負担尺度、6週および12週時のGHQ-12、EQ-5D、NPI-Dには差がなかった。

 有害事象の発現率は、ミルタザピン群が66%(67/102例)、プラセボ群は64%(65/102例)であり、両群で同程度であった。16週までに死亡した患者は、ミルタザピン群が7例で、プラセボ群の1例よりも多く、事後解析で示された統計学的有意性は僅差であった(p=0.065)。

 著者は、「これらのデータには、ミルタザピンが認知症患者の焦燥性興奮には無効であり、有害な可能性があることだけでなく、薬物を用いない従来療法を行えば、薬物療法による有害作用なしに焦燥性興奮が癒やされる可能性があることを示唆する肯定的な理由も含まれている」としている。

(医学ライター 菅野 守)

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