左後方心膜切開術、心臓手術後のAFを抑制/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2021/11/30

 

 心臓手術時に左後方心膜切開術を加えると、これを行わない場合に比べ術後の心房細動の発生率がほぼ半減し、術後合併症リスクの増加はみられないことが、米国・Weill Cornell MedicineのMario Gaudino氏らが実施した「PALACS試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2021年11月12日号で報告された。

米国の単施設の無作為化対照比較試験

 研究グループは、左後方心膜切開術は心臓手術後の心房細動の発生を抑制するとの仮説を立て、これを検証する目的で適応的単盲検無作為化対照比較試験を実施した(研究助成は受けていない)。

 本試験は、Weill Cornell Medicine(米国ニューヨーク市)の心臓胸部外科医によってニューヨーク・プレスビテリアン病院で実施され、2017年9月~2021年8月の期間に患者のスクリーニングが行われた。

 左後方心膜切開術は、心膜を横隔神経の後方で左下肺静脈から横隔膜まで4~5cm垂直に切開するもので、心臓手術後の心膜腔内の心嚢液や血栓を左胸膜腔へ排出する簡便な手術手技である。

 対象は、年齢18歳以上、心房細動や他の不整脈の既往歴がなく、冠動脈、大動脈弁、上行大動脈、またはこれらのうち複数の血管の初回待機的手術を受けた患者であった。

 被験者は、心臓手術中に左後方心膜切開術を受ける群または介入を受けない群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。患者と評価者には、治療割り付け情報が知らされなかった。フォローアップは、退院後30日まで行われた。

 主要アウトカムは、intention-to-treat(ITT)集団における術後の入院期間中における心房細動の発生とされた。安全性の評価はas-treated集団で行われた。

術後心嚢液貯留も少ない:12% vs.21%

 420例が登録され、左後方心膜切開術群に212例、非介入群に208例が割り付けられた。全体の年齢中央値は61.0歳(IQR:53.0~70.0)で、女性が102例(24%)含まれた。ベースラインのCHA2DS2-VAScスコア中央値は2.0(IQR:1.0~3.0)で、155例(37%)が3以上だった。

 臨床的、外科的な背景因子は、2群間でバランスが取れていた。フォローアップを完了できなかった患者はおらず、データの網羅性は100%だった。左後方心膜切開術群の3例が、実際には介入を受けなかった。

 ITT集団における術後心房細動の発生率は、左後方心膜切開術群が17%(37/212例)と、非介入群の32%(66/208例)に比べて有意に低かった(Mantel-Haenszel検定のp=0.0007)。層別変数で補正したオッズ比(OR)は0.44(95%信頼区間[CI:0.27~0.70、p=0.0005)であり、相対リスクは0.55(95%CI:0.39~0.78)だった。

 退院後30日以内の死亡率は、左後方心膜切開術群が1%(2/209例)、非介入群は<1%(1/211例)であった。また、術後の心嚢液貯留の発生率は、左後方心膜切開術群で低かった(12%[26/209例]vs.21%[45/211例]、相対リスク:0.58、95%CI:0.37~0.91)。

 術後の重度有害事象(術後脳卒中、術後心筋梗塞)は、左後方心膜切開術群が6例(3%)、非介入群は4例(2%)で発現した。左後方心膜切開術関連の合併症は認められなかった。

 著者は、「今回の結果はこれまでに得られたエビデンスと一致しており、左後方心膜切開術による大きな治療効果が認められ、介入のリスク/ベネフィット比がきわめて良好であることから、ほとんどの心臓手術でこの手技の追加を考慮すべきと考えられる」とまとめ、「介入の潜在的な臨床的利益を定量化するには、心臓手術の全領域を含む大規模で実践的な多施設共同確認試験を行う必要がある」としている。

(医学ライター 菅野 守)