多疾患罹患(multimorbidity)は、高年期よりも中年期の発症で認知症との関連が強く、併存する慢性疾患の数が多いほど認知症のリスクが高くなることが、フランス・パリ大学のCeline Ben Hassen氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年2月2日号で報告された。
Whitehall II研究のデータを用いた前向きコホート研究
研究グループは、中年期および高年期の多疾患罹患と、認知症の新規発症との関連を評価する目的で、前向きコホート研究を実施した(米国国立老化研究所[NIA]などの助成を受けた)。
解析には、進行中のWhitehall II研究のデータが用いられた。Whitehall II研究には、ベースライン時(1985~88年)に35~55歳のロンドン市の公務員が登録され、約4~5年ごとにフォローアップの調査が行われている。
主要アウトカムは、1985~2019年におけるフォローアップ時の新規発症の認知症とされた。原因別Cox比例ハザード回帰を用い、死亡の競合リスクを考慮したうえで、全体、55歳、60歳、65歳、70歳の時点での多疾患罹患とその後の認知症との関連が評価された。
55歳時の多疾患罹患で、認知症リスクが2.44倍に
1万95例が解析に含まれた。多疾患罹患(13の慢性疾患のうち2つ以上)の有病率は、55歳時が6.6%(655/9,937例)、70歳時は31.7%(2,464/7,783例)であった。フォローアップ期間中央値31.7年の時点で、639例(平均年齢49.9[SD 4.9]歳、男性58.5%)が新規の認知症に罹患した。
認知症罹患者で最も頻度の高い慢性疾患は高血圧症(77.9%)で、次いで冠動脈疾患(27.7%)、抑うつ(27.2%)、糖尿病(24.7%)の順であった。がんを除く12の慢性疾患は、認知症罹患と関連が認められた。
社会人口学的因子と健康行動(喫煙、身体活動、飲酒、果物/野菜摂取)で補正すると、慢性疾患がないまたは1つの集団と比較して、55歳時の多疾患罹患はその後の認知症のリスクと関連が認められた(1,000人年当たりの罹患率の差:1.56、95%信頼区間[CI]:0.62~2.77、ハザード比[HR]:2.44、95%CI:1.82~3.26)。
この関連性は、多疾患罹患の発症年齢が高くなるに従って徐々に弱くなった。たとえば、55歳以前に多疾患罹患を発症した場合は、65歳時の1,000人年当たりの認知症罹患率の、慢性疾患がないまたは1つの集団との差は3.86(95%CI:1.80~6.52)であった(HR:2.46、95%CI:1.80~3.36)のに対し、60~65歳時に発症した場合は、65歳時の1,000人年当たりの認知症罹患率の同差は1.85(95%CI:0.64~3.39)であった(HR:1.51、1.16~1.97)。
70歳時の多疾患罹患の状態の解析では、多疾患罹患の発症年齢が5歳若くなるごとに、認知症リスクは18%ずつ高くなった(HR:1.18、95%CI:1.04~1.34)。
また、55歳時に3つ以上の慢性疾患を有する多疾患罹患の場合は、1,000人年当たりの認知症罹患率の、慢性疾患がないまたは1つの集団との差は5.22(95%CI:1.14~11.95)であった(HR:4.96、95%CI:2.54~9.67)。一方で70歳時の同様の解析では、1,000人年当たりの認知症罹患率の同差は4.49(95%CI:2.33~7.19)であり(HR:1.65、95%CI:1.25~2.18)、多疾患罹患の発症年齢が高くなるに従って関連性が徐々に弱くなった。
著者は、「多疾患罹患は発症年齢の若年化が進んでいるため、初発の慢性疾患を有する集団における多疾患罹患の予防が重要である」としている。
(医学ライター 菅野 守)