合成ホルモン剤tiboloneには、エストロゲンやプロゲステロン、アンドロゲンと同様の効果があり、骨量減少を予防できるが、骨折や乳癌、心血管疾患に対する作用は不明である。この点について米国カリフォルニア大学のSteven R. Cummings氏らは、閉経後の高齢女性を対象にした大規模な無作為化試験の結果、「tiboloneは骨折と乳癌の発症リスクを低下させるが、脳卒中リスクを増大させる」と警告した。NEJM誌2008年8月14日号より。
60~85歳の女性4,538例を対象にプラセボ対照試験
試験は、60~85歳の女性を対象に、股関節または脊椎の骨密度のTスコアが-2.5以下か、同じくTスコア-2.0以下で脊椎骨折のX線所見が認められた4,538例を、tibolone投与群(1日1回1.25mg)と、プラセボ群に無作為に割り付け行われた。1年に1回X線写真撮影をして脊椎骨折を評価。また心血管イベントと乳癌発症率は、専門家委員会によって判定された。
大腸癌リスクも低下したが脳卒中リスク増大で試験中止
中央値34ヵ月の試験期間で、tibolone群とプラセボ群を比較すると、脊椎骨折のリスクは1,000人年につき70症例対126症例(相対ハザード:0.55、95%信頼区間:0.41~0.74、P<0.001)、脊椎以外の骨折のリスクは同122症例対166症例(0.74、0.58~0.93、P=0.01)とtibolone群のほうが減少していた。
tibolone群ではまた、浸潤性乳癌の発症リスク(相対ハザード:0.32、95%信頼区間:0.13~0.80、P=0.02)、大腸癌発症リスク(0.31、0.10~0.96、P=0.04)も減少していた。
虚血性心疾患、静脈血栓塞栓症のリスクについては両群間での有意差は認められず、むしろtibolone群では脳卒中の発症リスクが増大していた(相対ハザード:2.19、95%信頼区間:1.14~4.23、P=0.02)。このため試験はデータ・安全性監視委員会の勧告で2006年2月に中止された。
この結果を踏まえCummings氏は「tiboloneは骨粗鬆症の高齢女性の骨折と乳癌だけでなく、おそらく大腸癌の発症リスクも低下させるが、脳卒中リスクを増大させる」と結論している。
(武藤まき:医療ライター)