スコットランドの死亡率がイングランドとウェールズよりも高いことは早くから知られていた。特に、1981年の超過死亡率は12%だったが、2001年には15%になるなど、死亡率の格差は開いている。その原因の一つとしてこれまで、就職率や車の所有率、階級構成などの低さが指摘されてきた。しかし、このところスコットランドとイングランド、ウェールズとの貧富の差はかつての半分以下に縮まっている。この反比例の関係は「スコットランド効果」と呼ばれており、説得力のある説明はなされていなかった。この「スコットランド効果」の原因を調べるため、グラスゴー大学のMichael Bloor氏らのグループは、薬物使用状況と有病率に着目し、「DORIS」と命名されたコホート研究の二次解析を行った。BMJ誌2008年7月22日号より。
スコットランドの死亡率への薬物常用者の寄与率は有意に高い
Bloor氏らが薬物使用状況と有病率に着目したのは1991年と2001年の国勢調査によれば、原因不明の死亡率の超過分は0~44歳の男性に顕著だったこと。DORIS(Drug Outcomes Research in Scotland)の二次解析は、スコットランド全域にある33の薬物療法施設で2001~2年に集められた1,033例の問題薬物常用者を対象とし、33ヵ月後の2004~5年にかけて面接調査が行われた。
その結果、このコホートでは38例が死亡していた。この薬物常用者38例の死亡のうち、薬物関連死に分類されたのは22例にとどまり、残りは自殺を含む過量服用、薬物乱用に由来する感染症などだった。
問題薬物使用集団のサイズの推定値から、イギリス全体の薬物常用者の死亡率は、スコットランドが17.3%(95%信頼区間:12.3%~22.8%)、イングランドは11.1%(7.8%~14.8%)と推算された。
突出した超過死亡率の3分の1は薬物常用者によるもの
15~54歳の年齢調整死亡率(人口10万対)は、薬物常用者の死亡推算数を除外すると、スコットランドで196から162に、イングランドは138から122に低下することが明らかとなった。また、スコットランドの超過死亡率の32.0%(95%CI 22.3%~43.0%)は薬物使用によると分析された。つまり、タバコやアルコールの摂取、運動不足などと比べれば問題薬物使用自体の有病率リスクは低いものの、死亡率のアップ効果は高いということであり、スコットランドの薬物常用者の調整死亡率は集団全体の12倍にもなるという。スコットランドの問題薬物使用を要因とする高い有病率は、イングランドを上回る超過死亡率の3分の1を占めていた。
これらから研究グループは、スコットランドの問題薬物使用による有病率を低下させる、あるいは薬物常用者の死亡を減少させるために有効な公衆衛生活動が行われれば、スコットランドの総死亡率に劇的なインパクトを与えるだろうと述べている。