手厚い福利厚生と支援システムを有するデンマークでは、主に軽症の脳梗塞成人患者の約3分の2が、診断から2年後には労働市場に参加している一方で、脳出血患者は脳梗塞やくも膜下出血の患者に比べ職場復帰の確率が低いことが、デンマーク・オーフス大学病院のNils Skajaa氏らの調査で示された。職場復帰をしていない理由で最も多かったのは、病気休暇の取得と障害年金の受給であったという。研究の成果は、BMJ誌2023年1月3日号で報告された。
デンマークの全国的なマッチドコホート研究
研究グループは、脳卒中のサブタイプ別に、労働市場への参加と退職の状況を検討する目的で、全国的な人口ベースのマッチドコホート研究を行った(特定の研究助成は受けていない)。
解析には、デンマークの全病院が参加する脳卒中レジストリ(Danish Stroke Registry)と、その他の全国的なレジストリのデータ(2005~18年)が使用された。
対象は、年齢18~60歳の労働市場で活動している初発脳卒中患者2万2,907例(脳梗塞1万6,577例[72.4%]、脳出血2,025例[8.8%]、くも膜下出血4,305例[18.8%])と、年齢、性別、暦年でマッチさせた一般住民13万4,428人であった。
主要アウトカムとして、労働市場への参加、病気休暇給付金の受給、障害年金の受給、任意早期退職、公的年金、死亡に関して、重み付けなしの発生率を、週ごとに、脳卒中の診断から最長5年間算出した。
どのサブタイプも半数以上が病気休暇を取得
脳卒中群(2万2,907例)と一般住民群(9万8,007人)は、いずれも年齢中央値が51歳、男性が62%で、脳卒中群のScandinavian Stroke Scale(45~58:軽症、30~44:中等症、0~29:重症/きわめて重症)スコア中央値は55だった。
診断から3週間以内に脳卒中群の多くが病気休暇に入っており、サブタイプ別では脳梗塞患者が62%、脳出血患者が69%、くも膜下出血患者は52%であった。病気休暇の発生率は、診断から6ヵ月の時点では脳梗塞患者が39.8%、マッチさせた一般住民は2.6%、2年時はそれぞれ15.8%および3.8%であった。
労働市場参加の発生率は、6ヵ月時が脳梗塞患者で56.6%、一般住民で96.6%、2年時はそれぞれ63.9%および91.6%であった。また、障害年金受給の発生率は、6ヵ月時が脳梗塞患者で0.9%、一般住民で0.1%、2年時はそれぞれ12.2%および0.6%だった。
傾向スコアによる重み付けで、脳卒中群と、マッチさせた一般住民群の社会経済的な差と併存疾患の差を補正しても、両群の対比にはほとんど影響はなかった。
一方、脳出血患者は、他のサブタイプに比べ病気休暇取得率(6ヵ月時:53.9%、2年時:18.0%)や障害年金受給率(1.5%、23.2%)が高く、労働市場への参加(33.8%、42.5%)が少なかった。くも膜下出血患者は、病気休暇取得(6ヵ月時:34.3%、2年時:13.4%)、障害年金受給(0.7%、9.6%)、労働市場への参加(51.9%、61.2%)が、脳梗塞患者と同程度であった。
(医学ライター 菅野 守)