複合組織同種移植(CTA)によるヒト顔面移植術が短期的には成功したと見なしうる重度顔面損傷の事例が、Lancet誌2008年8月23日号に掲載された。中国・第4軍医大学Xijing病院形成外科(陝西省西安市)のShuzhong Guo氏らが実施した部分的顔面同種移植の2年間のフォローアップ研究の報告で、合併症は避けられないものの、重度の顔面損傷の長期的な修復の治療選択肢となる可能性があるという。CTAの最近の進歩は、重度顔面損傷に対する新たな治療法の可能性を示唆していた。
CTAと4剤併用免疫調整療法を実施
レシピエントは30歳の中国人男性で、2004年10月に熊に襲われて顔面に重度の損傷を負った。2006年4月、全身の前処置を入念に行ったうえでCTAを施行した。
右下顎動脈と前顔面静脈の吻合術、および鼻全体、上唇、耳下腺、上顎洞前壁、眼窩下壁、頬骨の全面的な修復を行い、術中に顔面神経の吻合を実施した。
タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、副腎皮質ステロイド製剤、ヒト化IL-2受容体モノクローナル抗体による4剤併用免疫調整療法を施行した。フォローアップでは、末梢血中のTリンパ球サブセットの測定、病理学的・免疫組織化学的検査、機能回復訓練、心理学的サポートなどを実施した。
合併症は避けられないが、コントロール可能
複合組織皮弁(フラップ)は良好な生着を示した。移植後3、5、17ヵ月目に急性の拒絶反応が見られたが、タクロリムスの用量調整およびメチルプレドニゾロンのパルス療法の導入によりコントロール可能であった。
肝機能および腎機能は正常であり、感染症も見られなかった。移植後3日目に高血糖をきたしたが、薬物療法でコントロール可能であった。
著者は、「顔面移植術は短期的には成功したといえるが、合併症は避けられない。しかし、今回の有望な結果は、複合組織同種移植が重度顔面損傷の長期的な修復法の選択肢となる可能性を示唆する」と結論し、「患者は、移植後の精神状態も良好で、新しい顔貌を容易に受け入れた。CTAによる顔面移植は迅速な社会復帰をも可能にするだろう」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)