Helicobacter pylori(H. pylori)感染は胃がんのリスク因子だが、遺伝性腫瘍関連遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントの、胃がんリスクへの関与や、これらの病的バリアントとH. pylori感染の組み合わせの、胃がんリスクに及ぼす影響は十分に評価されていないという。理化学研究所の碓井 喜明氏らは、9つの遺伝性腫瘍関連遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントが胃がんリスクと関連していること、そのうち相同組換え修復機能に関わる遺伝子の病的バリアントが、H. pylori感染による胃がんのリスクをさらに増強することを示した。研究結果は、NEJM誌2023年3月30日号に掲載された。
2つの独立コホートで、感染、病的バリアント、胃がんの関連を評価
研究グループは、バイオバンク・ジャパン(BBJ)の胃がん患者1万426例(年齢中央値69歳[四分位範囲[IQR]:62~75]、男性74.5%)と、対照群3万8,153例(64歳[54~72]、53.1%)を対象に、27個の遺伝性腫瘍関連遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントと胃がんリスクとの関連を評価した。
また、愛知県がんセンター病院疫学研究(HERPACC)の胃がん患者1,433例(年齢中央値62歳[IQR:54~69]、男性74.6%)と、対照群5,997例(55歳[45~64]、51.1%)を対象に、病的バリアントと
H. pylori感染状態の組み合わせが、胃がんリスクに及ぼす影響を評価し、累積リスクを算出した。
病的バリアント保持率は年齢とともに低下
BBJコホートの解析では、9個の遺伝子(
APC、
ATM、
BRCA1、
BRCA2、
CDH1、
MLH1、
MSH2、
MSH6、
PALB2)の生殖細胞系列の病的バリアントが、胃がんのリスクと関連していた(9遺伝子すべてでp<1.85×10
−3)。
これらの病的バリアント保持者の割合は、診断時の年齢が高くなるにつれて低下した(傾向のp=0.001)。9個の遺伝子の病的バリアント非保持者に比べ、
APCの病的バリアント保持者は年齢が18.0歳低く(p=0.003)、
CDH1の病的バリアント保持者は20.5歳(p<0.001)、
MLH1の病的バリアント保持者は11.5歳低かった(p=0.02)。
追跡期間中央値7.5年の時点での全生存期間は、保持者と非保持者で差はなかった(log-rank検定のp=0.58、多変量解析のハザード比:1.27、95%信頼区間[CI]:0.82~1.97、p=0.28)
85歳時の累積リスク、感染者で病的バリアント保持者は45.5%
HERPACCコホートの解析では、胃がんリスクに関して、
H. pylori感染と相同組換え遺伝子(
ATM、
BRCA1、
BRCA2、
PALB2)の病的バリアントとの間に交互作用が認められた(交互作用による相対的過剰リスク:16.01、95%CI:2.22~29.81、p=0.02)。
85歳の時点で、
H. pyloriの非感染者は、病的バリアントの保持・非保持にかかわらず、胃がんの累積リスクは5%未満であった。これに対し、
H. pylori感染者で相同組換え遺伝子の病的バリアント保持者は、同病的バリアント非保持者に比べ、胃がんの累積リスクが高かった(45.5%[95%CI:20.7~62.6]vs.14.4%[12.2~16.6])。
著者は、「これらの結果は、相同組換え遺伝子の病的バリアントの保持者では、
H. pylori感染の評価と除菌が、とくに重要となる可能性を示唆する」としている。本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)などの助成を受けて行われた。
(医学ライター 菅野 守)