RAS遺伝子野生型の転移を有する切除不能大腸がんの1次治療において、標準的な化学療法に抗EGFR抗体薬パニツムマブを併用すると、抗VEGF抗体薬ベバシズマブを併用した場合と比較して、原発巣が左側大腸の患者と、全患者(原発巣が左側または右側大腸)の双方で、全生存期間(OS)が有意に延長したことが、横浜市立大学附属市民総合医療センターの渡邉 純氏らが実施した「PARADIGM試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2023年4月18日号に掲載された。
日本の197施設の第III相臨床試験
PARADIGM試験は、日本の197施設が参加した非盲検無作為化第III相臨床試験であり、2015年5月~2017年6月の期間に患者の登録が行われ、2022年1月にフォローアップが終了した(Takeda Pharmaceutical の助成を受けた)。
年齢20~79歳で、化学療法による治療歴がなく、全身状態が良好(ECOG PSスコア0/1)な
KRAS/NRAS遺伝子野生型の転移を有する切除不能大腸がん患者が、標準化学療法(フルオロウラシル/l-ロイコボリン+オキサリプラチン[mFOLFOX6])に加え、パニツムマブまたはベバシズマブの投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。すべての薬剤の投与は14日ごとに行われた。
主要評価項目はOSであり、はじめに原発巣が左側大腸の患者で解析が行われ、有意差が認められた場合に、全患者の解析が実施された。
PFSには差がない
as-treated集団として、802例(年齢中央値66歳、女性35.2%)が登録された。パニツムマブ群に400例(原発巣:左側 312例[78%]、右側 84例[21%]、両側の複数病変 4例[1%])、ベバシズマブ群に402例(292例[73%]、103例[26%]、7例[2%])が割り付けられた。フォローアップ期間中央値は61ヵ月だった。
OS中央値は、原発巣が左側の患者では、パニツムマブ群が37.9ヵ月、ベバシズマブ群は34.3ヵ月(ハザード比[HR]:0.82、95.798%信頼区間[CI]:0.68~0.99、p=0.03)、全患者ではそれぞれ36.2ヵ月および31.3ヵ月(0.84、0.72~0.98、p=0.03)であり、いずれもパニツムマブ群で有意に延長した。
無増悪生存期間(PFS)中央値は、原発巣が左側の患者では、パニツムマブ群が13.1ヵ月、ベバシズマブ群は11.9ヵ月(HR:1.00、95%CI:0.83~1.20)、全患者ではそれぞれ12.2ヵ月および11.4ヵ月(1.05、0.90~1.24)であった。
奏効(完全奏効+部分奏効)率は、原発巣が左側の患者では、パニツムマブ群が80.2%、ベバシズマブ群は68.6%(群間差:11.2%、95%CI:4.4~17.9)、全患者ではそれぞれ74.9%および67.3%(7.7%、1.5~13.8)であり、奏効期間中央値は、原発巣が左側の患者では、それぞれ13.1ヵ月および11.2ヵ月(HR:0.86、95%CI:0.70~1.10)、全患者では11.9ヵ月および10.7ヵ月(0.89、0.74~1.06)であった。
また、治癒切除(R0)の割合は、原発巣が左側の患者では、パニツムマブ群が18.3%、ベバシズマブ群は11.6%(群間差:6.6%、95%CI:1.0~12.3)、全患者ではそれぞれ16.5%および10.9%(5.6%、1.0~10.3)だった。
原発巣が右側の患者では全生存期間に差がない
Grade3以上の有害事象は、パニツムマブ群が71.8%、ベバシズマブ群は64.9%、試験薬関連の重篤な有害事象はそれぞれ17.8%および10.8%、試験薬の投与中止をもたらした有害事象は23.8%および18.4%で発現した。
パニツムマブ群で頻度が高い有害事象として、にきび様皮膚炎(74.8% vs.3.2%)、爪周囲炎(52.0% vs.4.9%)、乾燥肌(46.0% vs.9.6%)、低マグネシウム血症(30.0% vs.1.7%)が、ベバシズマブ群で頻度の高い有害事象として、高血圧(1.7% vs.18.9%)、鼻出血(3.2% vs.19.9%)が認められ、末梢神経障害(70.8% vs.73.7%)と口内炎(61.6% vs.40.5%)は両群とも高頻度にみられた。
著者は、「サブグループ解析では、原発巣が右側の患者では両群間に全生存期間の有意な差は認められず、パニツムマブ群の全患者における全生存期間の有益性は主に原発巣が左側の患者で得られたと示唆された」と指摘し、「本試験では、左側腫瘍でも生存曲線は28ヵ月までは両群間に明確な差はなかったことから、左側と右側の腫瘍の差を説明する可能性がある
BRAF、
ERBB2(
HER2)、マイクロサテライト不安定性などのバイオマーカーについて、さらに検討を進める必要がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)