世界40ヵ国の心不全(HF)患者2万3,341例を登録したG-CHFレジストリ研究の結果、HFの病因、治療、転帰には国の経済レベルによって差があることを、カナダ・マックマスター大学のPhilip Joseph氏らG-CHF Investigatorsが報告した。HFに関する疫学研究の多くは高所得国で実施されており、中・低所得国での比較可能なデータは限られていた。著者は、「今回のデータは、世界的にHFの予防と治療の改善に取り組むうえで有用と考えられる」とまとめている。JAMA誌2023年5月16日号掲載の報告。
高・高中・低中・低所得国の、HFの原因、治療、入院、死亡を比較
研究グループは、経済発展のレベルが異なる国々の間で、HFの病因、治療、転帰にどのような違いがあるかを検討する目的で、2016~20年に5大陸40ヵ国の257施設からHF患者2万3,341例を登録し、前向きに追跡調査を行った。今回の解析では、2022年8月10日以前に記録された追跡調査期間中央値2.0年間のイベントに関する評価を行った。
40ヵ国の内訳は、研究開始時の世界銀行分類に基づき、高所得国17ヵ国8,691例(カナダ、米国、チリ、アイスランド、スウェーデン、アイルランド、英国、デンマーク、ドイツ、ポーランド、フランス、スイス、イタリア、ポルトガル、スペイン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦)、高中所得国10ヵ国5,793例(メキシコ、コロンビア、エクアドル、ブラジル、アルゼンチン、ロシア、トルコ、中国、ボツワナ、南アフリカ共和国)、低中所得国9ヵ国6,947例(ウクライナ、エジプト、スーダン、ナイジェリア、カメルーン、ケニア、パキスタン、インド、フィリピン)、低所得国4ヵ国1,910例(ウガンダ、タンザニア、モザンビーク、ネパール)である。
主要評価項目は、HFの原因、HF治療薬の使用、入院、死亡とした。
低所得国で、標準的HF治療の割合が低く、死亡率が高い
登録患者の平均(±SD)年齢は63.1±14.9歳、9,119例(39.1%)は女性であった。
HFの原因として最も多かったのは虚血性心疾患(38.1%)、次いで高血圧(20.2%)、特発性拡張型心筋症(15.4%)であった。高所得国、高中所得国、低中所得国では虚血性心疾患が最も多い原因であり、低所得国では高血圧が最も多い原因であった。
駆出率が低下したHF患者(左室駆出率が40%以下)の治療では、β遮断薬、レニン・アンジオテンシン系阻害薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬を併用している患者の割合は、高所得国(51.1%)と高中所得国(61.9%)で高く、低中所得国(39.5%)と低所得国(45.7%)で低かった(p<0.001)。
100人年当たりの年齢・性別標準化死亡率は、高所得国が7.8(95%信頼区間[CI]:7.5~8.2)で最も低く、高中所得国9.3(8.8~9.9)、低中所得国15.7(15.0~16.4)、低所得国が19.1(17.6~20.7)で最も高かった。ベースラインの患者特性および慢性HF治療薬の使用に関して補正後も、死亡リスクは高所得国と比較し、低中所得国(ハザード比[HR]:1.48、95%CI:1.37~1.60)および低所得国(2.10、1.90~2.33)で有意に高いままであった。
高所得国および高中所得国では初回入院率が死亡率より高く(死亡に対する入院の比率:それぞれ3.8、2.4)、低中所得国では同程度(同1.1)、低所得国では初回入院率より死亡率が高かった(同0.6)。
初回入院後30日死亡率は、高所得国が6.7%と最も低く、次いで高中所得国9.7%、低中所得国21.1%で、低所得国が31.6%と最も高かった。ベースラインの患者特性および慢性HF治療薬の使用に関して補正後も、初回入院後30日死亡のリスクは高所得国に比べて低中所得国および低所得国で3~5倍高かった。
(ケアネット)