急性期脳梗塞へのtirofiban、アスピリンより優れた改善/NEJM

大・中脳血管の閉塞を伴わない急性期脳梗塞患者の治療において、糖蛋白IIb/IIIa受容体阻害薬tirofibanは低用量アスピリンと比較して、非常に優れたアウトカム(修正Rankin尺度[mRS]スコア0または1)が達成される可能性が高く、安全性には大きな差はないことが、中国・陸軍軍医大学のWenjie Zi氏らが実施した「RESCUE BT2試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2023年6月1日号に掲載された。
中国のダブルダミー無作為化試験
RESCUE BT2試験は、中国の117施設で実施された二重盲検ダブルダミー無作為化試験であり、2020年10月~2022年6月の期間に参加者のスクリーニングが行われた(中国国家自然科学基金の助成を受けた)。対象は、年齢18歳以上、大・中脳血管の閉塞を伴わない脳梗塞を有し、米国国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS)スコアが5点以上で、少なくとも1肢に中等度~重度の脱力がみられ、以下の4つの臨床状態のいずれかに当てはまる患者であった。
(1)血栓溶解療法、血栓回収療法の適応がなく、最終健常確認から24時間以内、(2)発症後24~96時間の時点で脳梗塞症状の進行を認める、(3)血栓溶解療法後早期に、神経症状の増悪がみられる、(4)血栓溶解療法後4~24時間の時点で神経症状の改善がない。
被験者は、tirofiban静脈内投与+プラセボ経口投与を受ける群(tirofiban群)、またはアスピリン(100mg/日)経口投与+プラセボ静脈内投与を受ける群(アスピリン群)に無作為に割り付けられ、2日間の投与が行われた。その後は、全例に90日目までアスピリンが経口投与された。
有効性の主要エンドポイントは、90日時点における非常に優れたアウトカムとされ、mRSスコア(0[症状なし]~6[死亡]点)が0または1であることと定義された。
主要エンドポイントの達成割合は予想より低い
1,177例が登録され、tirofiban群に606例(年齢中央値68.0歳、男性62.5%、NIHSSスコア中央値9.0点、脳梗塞発症または症状進行から無作為化までの時間中央値10.9時間)、アスピリン群に571例(68.0歳、65.3%、9.0点、11.2時間)が割り付けられた。ほとんどの患者が、アテローム性動脈硬化性と推定される小梗塞を有していた。90日時にmRSスコア0または1を達成した患者の割合は、tirofiban群が29.1%(176/604例)と、アスピリン群の22.2%(126/567例)に比べ、有意に優れた(補正後リスク比:1.26、95%信頼区間[CI]:1.04~1.53、p=0.02)。
90日時の総合アウトカム(mRSスコア0/1、NIHSSスコア0/1、Barthel指数95~100点、Glasgowアウトカム尺度5点の統合)(共通オッズ比[OR]:1.38、95%CI:1.07~1.78、p=0.01)は、tirofiban群で良好であったが、90日時のmRSスコア中央値(共通OR:1.23、95%CI:1.00~1.51、p=0.06)には有意差はみられなかった。
死亡は、tirofiban群が3.8%(23/604例)、アスピリン群は2.6%(15/567例)で認められ、両群間に有意な差はなかった(補正後リスク比:1.62、95%CI:0.88~2.95、p=0.12)。症候性頭蓋内出血は、tirofiban群が1%(6/606例)で発現し、アスピリン群では発現しなかった(p=0.03)。
著者は、「非常に優れたアウトカムの達成割合は、両群とも予想より低かった。これは、参加者の多くが大学病院以外の施設で募集されたため、脳梗塞後の院外リハビリテーションを受けなかった可能性があり、機能回復が限定的であったことが原因と推察される」としている。
(医学ライター 菅野 守)
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tirofiban、知っている?(解説:後藤信哉氏)
コメンテーター : 後藤 信哉( ごとう しんや ) 氏
東海大学医学部内科学系循環器内科学 教授
J-CLEAR理事