臨床試験で有意差なし、本当に効果なし?/JAMA

提供元:ケアネット

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公開日:2023/07/03

 

 無作為化臨床試験の多くは統計学的に有意でない結果をもたらすが、このような知見は一般的な統計学的枠組みで解釈することは困難とされる。スイス・ジュネーブ大学のThomas Perneger氏らは、尤度比を適用することで、有意でない主要アウトカムの結果のうち、効果なしとする帰無仮説を支持するエビデンスの強度と、事前に規定された有効であるとする対立仮説を支持するエビデンスの強度を推定した。その結果、対立仮説(尤度比<1)が支持されたのは8.9%に過ぎず、91.1%では帰無仮説(尤度比>1)が支持された。研究の成果は、JAMA誌2023年6月20日発行号に掲載された。

2021年の有意でないアウトカム169件の横断研究

 研究チームは、2021年に主要医学ジャーナル6誌(JAMA、New England Journal of Medicine[NEJM]、PLoS Medicine、BMJ、Lancet、Annals of Internal Medicine)に掲載された無作為化臨床試験の論文130件の、統計学的に有意でない主要アウトカムの結果169件について横断研究を行った。

 これら169件の結果について、効果なしとする帰無仮説と、試験プロトコールに記載された有効性の仮説(対立仮説)の尤度比を算出した。また、ベイズの定理を用いて治療が有効でない事後確率を計算した。

 尤度比は、これらの仮説に対する支持を定量化するもので、>1の場合は帰無仮説を、<1の場合は対立仮説を支持し、たとえば尤度比5はそのデータが対立仮説の5倍の強度で帰無仮説を支持することを意味する。尤度比10は「強いエビデンス」、100は「決定的なエビデンス」であり、尤度比100以上の場合は一般的な事前信念(prior belief)のレベルでは特定の対立仮説ではなく、帰無仮説が真である事後確率が高いことを示唆する。

約7割で強い、約5割で決定的な帰無仮説のエビデンス

 130件の論文のうち掲載数が最も多かったジャーナルはJAMA(41件[31.5%])で、次いでNEJM(26件[20.0%])であった。105件(80.8%)は2群の比較試験で、62件(47.7%)は化学物質(薬剤、栄養補助食品、バイオ医薬品、ワクチン)、52件(40.0%)は薬物以外の介入(デバイス、手術、診断法、行動介入など)に関する試験であり、49件(37.7%)は通常治療との比較、45件(34.6%)はactive controlとの、36件(27.7%)はプラセボ/シャムとの比較だった。

 解析の結果、有意でない主要アウトカム169件のうち、15件(8.9%)は有効であるとする対立仮説(尤度比<1)を支持し、154件(91.1%)は効果なしの帰無仮説(尤度比>1)を支持した。117件(69.2%)では尤度比が10(強いエビデンス)を超え、88件(52.1%)では100(決定的なエビデンス)を、50件(29.6%)では1,000を上回った。

 一方、尤度比とp値との間には弱い相関しかなかった(Spearman相関係数 r=0.16、p=0.45)。また、信頼区間(CI)内に対立仮説の有効性のパラメータが含まれたのは39件(23.1%)で、残り130件(76.9%)では含まれていなかった。95%CI内に両仮説のパラメータの値が含まれる場合の尤度比は0.2~6.2の範囲であり、含まれない場合の範囲は3.0~10146だった。

 著者は、「多くの統計学的に有意でない臨床試験の結果は、新たな治療法は効果がないという決定的なエビデンスを示している」と結論し、「主要アウトカムの差に統計学的有意差がない場合は、尤度比を報告することで、臨床試験の解釈が改善される可能性がある」と指摘している。

(医学ライター 菅野 守)

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コメンテーター : 折笠 秀樹( おりがさ ひでき ) 氏

統計数理研究所 大学統計教員育成センター 特任教授

滋賀大学 データサイエンス・AIイノベーション研究推進センター 特任教授

J-CLEAR評議員