トランスジェンダーの人々は自殺企図や死亡のリスクが高い可能性が示唆されている。デンマーク・Mental Health Centre CopenhagenのAnnette Erlangsen氏らは、今回、トランスジェンダーは非トランスジェンダーと比較して、最近42年間における自殺企図、自殺による死亡、自殺と関連のない死亡、あらゆる原因による死亡のいずれもが、有意に高頻度であることを示した。研究の成果は、JAMA誌2023年6月27日号で報告された。
デンマークの後ろ向きコホート研究
研究グループは、デンマークにおけるトランスジェンダーの自殺企図、死亡の頻度を評価する目的で、全国規模の登録ベースの後ろ向きコホート研究を行った(Danish Health Foundationの助成を受けた)。
対象は、デンマークで生まれで、1980年1月1日~2021年12月31日に同国に居住していた15歳以上。トランスジェンダーを自認する人々の確認は、全国の病院記録と法的な性別変更の行政記録で行った。
全国入院・死因登録のデータを用いて、1980~2021年の自殺企図、自殺死(自殺既遂)、自殺以外による死亡、全死因死亡を同定した。暦年、出生時に割り当てられた性別、年齢で調整し、トランスジェンダーと非トランスジェンダーにおけるこれらのアウトカムの補正後発生率比(aIRR)と95%信頼区間(CI)を算出した。
665万7,456人(出生時に割り当てられた性別は男女とも50.0%ずつ)が解析に含まれ、フォローアップ期間は1億7,102万3,873人年であった。このうち3,759人(0.06%)がトランスジェンダーと判定され、判定時の年齢中央値は22歳(四分位範囲[IQR]:18~31)だった。1,975人(52.5%)は出生時に男性、1,784人(47.5%)は女性に割り当てられていた。
42年で企図、死亡は低下したが、aIRRは有意に高い
自殺企図は、トランスジェンダー群では92件(初回自殺企図年齢中央値27歳[IQR:19~40])、非トランスジェンダー群では11万9,093件(36歳[23~50])発生した。10万人年当たりの標準化自殺企図率は、トランスジェンダー群が498件、非トランスジェンダー群は71件で、10万人年当たりの標準化発生率の差は428件(95%CI:393~463)であり、aIRRは7.7(95%CI:5.9~10.2)とトランスジェンダー群で自殺企図率が有意に高かった。
また、10万人当たりの標準化自殺死亡率は、トランスジェンダー群が75件、非トランスジェンダー群は21件であり、aIRRは3.5(95%CI:2.0~6.3)とトランスジェンダー群で自殺死亡率が有意に高かった。
10万人年当たりの標準化非自殺性死亡率は、トランスジェンダー群が2,380件、非トランスジェンダー群は1,310件(aIRR:1.9、95%CI:1.6~2.2)、10万人年当たりの標準化全死因死亡率はそれぞれ2,559件、1,331件(2.0、1.7~2.4)であり、いずれもトランスジェンダー群で有意に高率だった。
42年の対象期間中に、自殺企図と死亡の割合は低下したにもかかわらず、いずれのアウトカムも最近のaIRRが有意に高く、2021年のaIRRは自殺企図が6.6(95%CI:4.5~9.5)、自殺死亡が2.8(1.3~5.9)、非自殺性死亡が1.7(1.5~2.1)、全死因死亡が1.7(1.4~2.1)と、いずれもトランスジェンダー群で高かった。これは、トランスジェンダーでは自殺企図と死亡のリスクが継続的に高いことを反映している。
著者は、「トランスジェンダーは、いじめ、差別、排除、偏見といった形で、トランスであることに関する組織的な否定にさらされる可能性があり、少なくとも部分的には、このようなマイノリティストレスの結果として、疎外感や内面化されたスティグマ、精神衛生上の問題、ひいては自殺行動につながる可能性がある」と指摘し、「トランスジェンダーの自殺を減らすための取り組みが求められ、これには個人的な苦悩がある場合に助けを求めるよう促すといった直接的な対策が含まれるほか、医療専門家による研修や最善の診療ガイドラインの実施、性別にとらわれない公衆浴場や更衣室の普及といった、構造的な差別を減らすための一般的な対策も提言されている」としている。
(医学ライター 菅野 守)