小~中型の片側性前庭神経鞘腫の治療において、早期の放射線治療(upfront radiosurgery)は経過観察(wait and scan)と比較して、4年後の腫瘍体積が有意に減少し、聴力や単語認知の変化には差がなかったことが、ノルウェー・Haukeland大学病院のDhanushan Dhayalan氏らが実施した「V-REX試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2023年8月1日号に掲載された。
ノルウェーの医師主導無作為化臨床試験
V-REXは、ノルウェーの単一施設(Haukeland大学病院)で実施された優越性を検証する医師主導の無作為化臨床試験であり、2014年10月~2017年10月の期間に患者を登録し、2021年10月に4年間の追跡調査を終了した(同病院神経外科などによる研究支援を受けた)。
対象は、年齢18~70歳、新規に診断(6ヵ月以内)された片側性の前庭神経鞘腫で、MRIで測定した小脳橋角部の腫瘍径が2cm未満の患者であった。被験者を、早期に放射線治療(ガンマナイフを用いた定位手術的照射)を受ける群、または経過観察(画像上で腫瘍の増殖が認められた場合にのみ治療を行う)を受ける群に無作為に割り付けた。
主要評価項目は、4年後の試験終了時とベースライン時の腫瘍体積の比(V4:V0)であった。副次評価項目は、患者報告による症状や臨床検査、聴力検査、生活の質(QOL)を含む26の項目だった。
副次評価項目は、1つを除き差がない
98例を登録し、放射線治療群に48例(平均年齢54[SD 12]歳、女性46%)、経過観察群に50例(54[SD 10]歳、38%)を割り付けた。放射線治療群の3例(6%)が、介入から3年後に持続性の腫瘍増殖により追加治療を要した(再放射線治療1例、サルベージ・マイクロサージャリー2例)。経過観察群では、21例(42%)が腫瘍増殖時に放射線治療を、1例(2%)がサルベージ・マイクロサージャリーを受け、28例(56%)は無治療だった。
4年後の幾何平均V4:V0は、経過観察群が1.51(95%信頼区間[CI]:1.23~1.84)であったのに対し、放射線治療群は0.87(0.66~1.15)と、腫瘍体積が有意に減少した(両群の比:1.73、95%CI:1.23~2.44、p=0.002)。
一方、26の副次評価項目のうち、非対称性の顔面の感覚異常(6件[12%]vs.0件[0%])の発現が放射線治療群で多かったが、残りの25項目は有意差を認めなかった。
たとえば、純音聴力検査による聴力は試験期間中に両群とも低下し、4年後の平均値は放射線治療群が60dB、経過観察群が61dBであり、ベースラインからの悪化の程度はそれぞれ18dBおよび20dBであった(平均群間差:-2dB、95%CI:-8~5)。また、4年後の単語認知スコアの平均値は、放射線治療群が42%、経過観察群が47%であり、ベースラインからの低下はそれぞれ35%および29%だった(-6%、-19~7)。
死亡および放射線関連の合併症(水頭症、脳幹壊死、放射線誘発腫瘍、悪性形質転換など)は発現しなかった。
著者は、「これらの知見は、前庭神経鞘腫患者の治療方針の決定に有益な情報をもたらす可能性があり、今後、長期的な臨床アウトカムの調査が求められる」としている。
(医学ライター 菅野 守)