米国では、食品医薬品局(FDA)の迅速承認を受けたがん治療薬の多くは、承認から5年以内に全生存期間(OS)または生活の質(QOL)に関して有益性を示せず、確認試験で臨床的有用性を示したのは半数に満たないことが、米国・ハーバード大学医学大学院のIan T. T. Liu氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年4月7日号で報告された。
米国FDAが2013~23年に迅速承認したがん治療薬を調査
研究グループは、FDAによる迅速承認を受けたがん治療薬が最終的に臨床的有用性を示すかを確認し、通常承認への転換の根拠を評価する目的でコホート研究を行った(Arnold Ventures and the Commonwealth Fundの助成を受けた)。
迅速承認は、満たされない医療ニーズのある重篤な疾患の特定の治療薬について、代替評価項目の改善に基づいて承認を許可する優先審査制度。迅速承認を受けた医薬品の製造企業は、有効性を確認するために臨床評価項目の評価を行う承認後臨床試験の実施を求められる。
本研究では、公開されているFDAのデータを用いて、2013~23年に迅速承認されたがん治療薬を特定し検証した。
確認試験で臨床的有用性を示したのは43%
2013~23年に129件のがん治療薬とその適応症の組み合わせが迅速承認を受けた。このうちQOLとOSの解析を行い、追跡期間が5年以上(2013~17年に承認)の適応症は46件(1次解析)で、そのうち通常承認へ変更された適応症は約3分の2(29件[63%])であり、10件(22%)は取り下げとなり、7件(15%)は6.3年(中央値)の時点で追跡を継続中であった。
確認試験で臨床的有用性を示したのは46件中20件(43%)であり、半数に満たなかった。取り下げまでの期間は9.9年から3.6年に短縮し、通常承認までの期間は1.6年から3.6年に延長した。
患者に明確な情報提供を
通常承認への変更の決定を支持するエビデンスに焦点を当てた2次解析では、2013~23年に迅速承認を受けたがん治療薬と適応症の組み合わせは66件で、このうち48件(73%)が通常承認へ変更され、18件(27%)は取り上げられた。
通常承認へ変更された48件のうち、19件(40%)はOSを根拠とし、21件(44%)は無増悪生存期間、5件(10%)は奏効率(ORR)+奏効期間、2件(4%)はORRに基づくものであり、残りの1件(2%)は確認試験で有効性が示されなかったにもかかわらず通常承認を受けていた。
また、迅速承認と通常承認の適応症を比較すると、48件中18件(38%)は変更がなかったが、30件(63%)は適応症が異なっていた(たとえば、より早期の治療ラインへの変更など)。
著者は、「迅速承認は有用と考えられるが、がん治療薬の中には患者の延命やQOLの改善という有益性を示すことができないものもある。患者には、迅速承認制度の利用や患者中心の臨床アウトカムにおいて、有益性を示さないがん治療薬について明確に情報提供を行うべきである」としている。
(医学ライター 菅野 守)