小児がんの薬剤開発、何が進んだか、次に何をすべきか/日本小児血液・がん学会

提供元:ケアネット

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公開日:2023/11/06

 

 2022年11月に開催された前回の学術集会で、小児がんの薬剤開発に関する課題の共有や抜本的な制度改革への必要性が提言されて以降、さまざまな場で具体的な方策についての検討が行われてきた。その進捗について、第65回日本小児血液・がん学会学術集会の学会特別企画「『小児がんの薬剤開発を考える』何が進んだか、次に何をすべきか」にて、小川 千登世氏(国立がん研究センター中央病院 小児腫瘍科)と鹿野 真弓氏(東京理科大学 薬学部)から、それぞれ報告があった。

国内における小児がんの薬剤開発のためには抜本的な制度改革が必要

 日本における小児がんを対象とした臨床試験数は欧米と比較して圧倒的に少なく、その背景には小児に対する薬剤開発の義務化の有無が影響していると考えられている。小児がんの薬剤開発が進まない理由としては、1)市場規模が小さく、開発コストや法的義務の負担が大きいこと、2)小児治験を実施する環境が不十分であること、3)医師主導治験で開発を試みるも公的予算・研究費の確保が困難であること、4)対象患者が少なく被験者の確保も難しいといった問題等が挙げられる。

 小川氏は、これらの問題解決のために「企業開発を可能とするための効果的なインセンティブや、医師主導治験に対する公的予算・研究費の十分な提供、継続的に実施できる体制強化といった抜本的な制度改革が必要である」と述べた。

ゲノム医療における、小児がんドラッグラグ解消に向けた取り組み

 がん遺伝子パネル検査で治療候補薬が見つかった患児やその家族から、薬剤アクセス確保の要望が高まっている一方で、ゲノム医療において「小児がんドラッグラグ」の問題が「がん対策推進基本計画(第3期)」の課題として挙がっていた。この薬剤アクセス改善に向けて、治験の実施を促進する方策について検討するとともに、小児がん中央機関や拠点病院、関係学会だけでなく企業等と連携して研究開発を推進することが、第4期に取り組むべき施策として、がん対策推進基本計画(2023年3月28日に閣議決定)に明記されている。

 これらの課題解決には、「小児がん治療開発コンソーシアム」を構築し、患児や家族、国内外の企業、海外アカデミアとの連携による治療薬開発促進や、小児がん患者の薬剤アクセス改善に向けた活動を目指すとしている。小川氏からは、国際共同企業治験の呼び込みとして、国際学会やACCELERATE Platformへの参加による情報収集や海外企業へのコンタクトの実施、薬剤アクセスの改善では、マスタープロトコルを用いた患者申出療養制度に基づく特定臨床試験(PARTNER試験)の実施などの紹介があった。ほかにもさまざまな検討会が立ち上げられ、小児がんのドラッグラグ解消に向けた施策が進行中である。

小児がんの薬剤開発の推進には制度改革だけでなく、実施にむけた環境整備も必要

 小児がんや小児の希少難治性疾患に対する薬剤開発の推進に向けて、鹿野氏から「小児がん及び小児稀少難治性疾患に係る医薬品開発の推進制度に資する調査研究」について報告があった。

 欧米では、成人の医薬品開発過程における小児開発の検討が法律で義務化されて以降、小児臨床試験の割合は増加。その一方で、小児開発が免除(Waiver)または延期(Deferral)となる割合も2017年以降増加していた。米国におけるWaiverの適用理由として、小児患者が少なく治験の実施困難が全体の8割程度、Deferralの適用理由は非開示が多いものの、安全性・有効性に対する懸念、小児用製剤開発の必要性を理由とする事例が確認された。

 製薬企業等を対象としたアンケート調査の結果では、欧米で小児適応を取得済み、または開発中の医薬品に対して、日本国内で小児適応に向けた具体的な開発計画がない品目があると回答した企業が半数近く存在した。その理由として、収益性や治験実施体制の整備、PMDAの審査・相談、欧米のような義務化といった問題が挙がっていた。医療機関を対象としたアンケート調査の結果でも、国内で開発が進まない理由として製薬企業の調査結果と同様の課題が挙がっていた。

 この課題解決に向けて鹿野氏は、「解決に向けた取り組みは、いろいろなところで始まっている。これらが統合されて、小児がんの薬剤開発の推進を皆で盛り上げていくことが大切である」と述べた。

小児がんの薬剤開発として、次に何をすべきか?

 講演の後半では、今後の小児がんの薬剤開発についてパネルディスカッションが行われた。課題解決に向けて、「患者・家族の立場として、課題をもっと周知してもらうために、いろいろな場所で情報発信していく必要がある。そのためには患者リテラシーも向上していきたい」「薬剤開発の推進にはスピード・コスト・クオリティの3つのバランスが必要。日本はスピード・コストに課題があるため、この点をカバーするために現在行われている取り組み等に企業としても貢献していきたい」「インセンティブや治験の実施体制などの環境整備の問題等、課題を複合的に検討していく必要がある」など、さまざまな意見が出された。

 最後に小川氏は、「昨年からの進捗状況として、いろいろなことが前進したと実感している。小児がんの薬剤開発を盛り上げていくために、患者さんの会、企業、行政と連携して、また1年後に進捗状況を共有していきたい」と締めくくった。

(ケアネット 高津 優人)