常染色体優性遺伝性アルツハイマー病に関連するPSEN1E280A変異保因家系において、アポリポ蛋白E3クライストチャーチ変異体(APOE3Ch)を1コピー有するヘテロ接合体保有者では認知機能障害の発症が遅いことを、米国・ハーバード大学医学大学院のYakeel T. Quiroz氏らがレトロスペクティブコホート研究で明らかにした。アポリポ蛋白EをコードするAPOEとプレセニリン1をコードするPSEN1の変異はアルツハイマー病のリスクを変化させる。著者らは先行研究にて、PSEN1E280A変異による常染色体優性遺伝性アルツハイマー病患者において、APOE3Chを2コピー有するホモ接合体患者における認知機能障害の発症遅延を報告していた。NEJM誌2024年6月19日号掲載の報告。
PSEN1E280A変異保因者一族1,077人を約30年追跡調査
研究グループは、コロンビアのアンティオキア地方に住む
PSEN1E280A変異保因者一族の18歳以上の1,077人について、1995~2022年まで調査した。参加者は、定期的に臨床的および神経心理学的評価(Consortium to Establish a Registry for Alzheimer's Disease[CERAD]、Trail Making Test[TMT]、Rey-Osterrieth Complex Figure[ROCF]など)、ならびに認知機能評価(Functional Assessment Staging[FAST]、ミニメンタルステート検査[MMSE])を受けた。
1,077人のうち、
APOE3Ch変異のヘテロ接合体を有する27人を同定し、この27人と傾向スコアを用いてマッチングした
APOE3Ch変異非保有者と、
APOE3Ch変異ヘテロ接合体保有者の認知機能障害および認知症の発症年齢を比較した。また、一部の症例では脳画像検査および剖検についても検討した。
APOE3Ch変異ヘテロ接合体保有者で認知機能障害の発症が5年遅延
PSEN1E280A変異保因者において、軽度認知機能障害の発症年齢中央値は
APOE3Ch変異体ヘテロ接合体保有者では52歳(95%信頼区間:51~58)に対し、
APOE3Ch変異非保有者では47歳(47~49)、認知症の発症年齢中央値はそれぞれ54歳(49~57)、50歳(48~51)であった。
脳画像検査を受けた
APOE3Ch変異ヘテロ接合体保有者2人では、
18F-FDG PETにおいて、アルツハイマー病に関連する脳領域の代謝活性が比較的保たれていることが示された。また、2人のうち1人で行われた
18F-flortaucipir-PETでは、この一族での典型的な年齢で認知障害を発症した
PSEN1E280A変異保因者と比較し、タウの蓄積が限定的であった。
APOE3Ch変異ヘテロ接合体保有者4人で剖検が行われ、
APOE3Ch変異非保有者と比較して前頭葉で脳アミロイド血管症の病理学的特徴が少ないことが示された。
(ケアネット)