心臓手術または腹部手術後の手術部位感染(SSI)の予防において、術前の皮膚消毒薬としてのポビドンヨードのアルコール溶液はクロルヘキシジングルコン酸塩のアルコール溶液に対し非劣性で、心臓と腹部の手術のいずれにおいてもSSI発生率に有意な差はないことが、スイス・バーゼル大学のAndreas F. Widmer氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年6月17日号で報告された。
スイス3施設のクラスター無作為化クロスオーバー非劣性試験
本研究は、スイスの3つの大学病院で実施したクラスター無作為化クロスオーバー非劣性試験であり、2018年9月~2020年3月の期間に患者を登録した(スイス国立科学財団[SNSF]の助成を受けた)。
心臓または腹部の待機的手術が予定されている成人患者を対象とした。各施設は、連続18ヵ月間にわたり、毎月、ポビドンヨードまたはクロルヘキシジングルコン酸塩のいずれかのアルコール溶液を使用する群(クラスター)に無作為化された。治療の割り付け情報は、アウトカムの評価者や各施設の責任医師、統計解析の担当者などにはマスクされたが、試験薬の固有の色の違いのため患者と外科医のマスクは不可能だった。
主要アウトカムは、腹部手術後30日以内のSSIと心臓手術後1年以内のSSIの発生とした。非劣性マージンは2.5%に設定した。
SSI発生率:5.1% vs.5.5%
3,360例を登録し、ポビドンヨード群に1,598例(26クラスター)、クロルヘキシジングルコン酸塩群に1,762例(26クラスター)を割り付けた。平均年齢は、いずれの群も65.0歳で、女性はそれぞれ32.7%および33.9%であった。
SSIは、ポビドンヨード群で1,570例中80例(5.1%)、クロルヘキシジングルコン酸塩群で1,751例中97例(5.5%)に発生し、群間差は0.4%(95%信頼区間[CI]:-1.1~2.0)であり、CIの下限値は事前に規定した非劣性マージン(-2.5%)を超えておらず、ポビドンヨード群はクロルヘキシジングルコン酸塩群に対して非劣性であった。
クラスタリングで補正しても結果は同様であった。また、クロルヘキシジングルコン酸塩群に対するポビドンヨード群の未補正の相対リスク(RR)は0.92(95%CI:0.69~1.23)だった。
SSIの3種の深さでも、有意な差はない
心臓手術におけるSSI発生率はポビドンヨード群で高く(4.2% vs.3.3%、RR:1.26、95%CI:0.82~1.94)、腹部手術では同群で低かった(6.8% vs.9.9%、0.69、0.46~1.02)が、いずれも有意な差を認めなかった。
また、SSIの深さ別の解析では、表層切開創(ポビドンヨード群2.1% vs.クロルヘキシジングルコン酸塩群1.7%、RR:1.22、95%CI:0.74~2.01)、深部切開創(1.0% vs.1.2%、0.84、0.43~1.63)、臓器・体腔(1.9% vs.2.3%、0.81、0.51~1.30)のいずれにおいても、SSI発生率に関して両群間に有意な差はなかった。
著者は、「本試験では、退院後の患者の追跡調査がきわめて良好で、アウトカムが適切に特定されたことが重要である」と述べつつ、「2021年のメタ解析では、ポビドンヨードは整形外科手術や腹部手術に適しているが、帝王切開にはあまり適さない可能性があるとの仮説が提示され、外科的介入の種類も消毒薬の効果に影響を及ぼす可能性が示唆されている」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)