近年、植込み型除細動器(ICD)の新たなプログラミング・ガイドラインが策定され、ICDの新技術の開発が進んでいるため、1次予防のICD装着患者における心室頻拍(VT)を停止させる方法としての抗頻拍ペーシング(ATP)の再評価が求められている。米国・ロチェスター大学のClaudio Schuger氏らAPPRAISE ATP Investigatorsは「APPRAISE ATP試験」において、1次予防として最新の不整脈検出プログラムを使用したICDを装着した患者では、電気ショックによる治療のみを行う方法と比較してショック作動の前にATPを1回行うアプローチは、全原因による初回ショック作動までの時間の相対リスクを有意に減少させ、適切なショック作動や不適切なショック作動が発生するまでの時間を改善することを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年10月3日号に掲載された。
VT停止におけるATPの役割を評価する国際的な無作為化試験
APPRAISE ATP試験は、1次予防のICD装着患者において、最新のプログラムを用いてfast VTを停止させる際のATPの役割の評価を目的とする二重盲検無作為化臨床試験であり、2016年9月~2021年4月に北米、欧州、アジアの8ヵ国(日本を含む)の134施設で参加者を登録した(Boston Scientific Corporationの助成を受けた)。
対象は、年齢21歳以上、左室駆出率が35%以下であるため1次予防としてのICDが適応となる患者であった。被験者を、ATP+ショックを受ける群またはショックのみを受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。
主要エンドポイントは、全原因によるショックが最初に作動するまでの時間とした。副次エンドポイントは、適切なショック(VTまたはVF[心室細動]に対して行われたショック)が最初に作動するまでの時間、不適切なショック(VT、VF以外のリズムに対して行われたショック)が最初に作動するまでの時間、全死因死亡、全原因によるショックが最初に作動するまでの時間と全死因死亡の複合であった。
本試験は、相対的マージンを35%とした同等性デザインで行われ、中間解析および同等性が証明されなかった場合の最終解析で優越性を評価した。
ATP+ショック群の優越性を確認
2,595例(平均年齢63.9歳、女性22.4%)を登録し、1,302例をATP+ショック群に、1,293例をショック単独群に割り付けた。追跡期間中央値は、ATP+ショック群が38ヵ月、ショック単独群は41ヵ月だった。全体で644例が試験を完了せずに脱落した。
全原因によるショック作動は、ATP+ショック群で129例、ショック単独群で178例に発生し、Kaplan-Meier法による60ヵ月時の累積発生率の推定値は、それぞれ14.6%および19.4%であった。主要エンドポイントのハザード比(HR)は0.72(95.9%信頼区間[CI]:0.57~0.92)であり、同等性は確認されなかった。優越性解析では、ATP+ショック群のショック単独群に対する優越性が示された(p=0.005)。
総ショック負荷には有意差がない
適切なショック(HR:0.73、95%CI:0.56~0.95)および不適切なショック(0.65、0.44~0.97)が最初に作動するまでの時間は、いずれもショック単独群に比べATP+ショック群でリスクが低かった。また、全死因死亡(1.15、0.94~1.41)および全原因によるショックが最初に作動するまでの時間と全死因死亡の複合(0.92、0.78~1.07)は、両群間に差を認めなかった。
ITT解析では、追跡期間中の100人年当たりの総ショック負荷は、ATP+ショック群が12.3、ショック単独群は14.9であり、両群間に統計学的な有意差はなかった(p=0.70)。
著者は、「ショック作動前に1回のATPを追加することにより、追跡期間中のショック負荷は改善しないものの、全原因によるICDのショック作動までの時間が有意に延長したため、1次予防のICD装着患者における第1選択の治療法として有効と考えられる」「これらのデータは、ATPは全原因によるショック作動の年間1%の絶対的減少をもたらすことを示しており、1次予防コホートにおいてICD器機を選択するための共同意思決定の際に考慮すべきである」としている。
(医学ライター 菅野 守)