米国内での幸福度にはかなりの格差があり、人種・民族(いわゆるレイシズム)、性別、年齢、および居住地による強い影響がある。米国・ワシントン大学のLaura Dwyer-Lindgren氏らが、人間開発指数(Human Development Index:HDI)を用いた2008~21年のAmerican Community Survey(ACS)Public Use Microdata Sampleの解析結果を報告した。HDIは平均寿命、教育、所得を網羅した複合指標であり、国レベルで人間開発や幸福度を評価・比較するのに広く用いられている。一方で、国内の不平等に関して考慮されていない点で限定的な指標とされていた。Lancet誌オンライン版2024年11月7日号掲載の報告。
米国民の人種・民族、性別、年齢および居住地による幸福度の格差を調査
研究グループは、HDIフレームワークを適用させ個人レベルでHDIを測定し、人種・民族、性別、年齢および居住地による幸福度の格差を調べた。
2008~21年のACS Public Use Microdata Sampleの25歳以上の個人レベルデータを用いた。人種・民族、年齢、性別、居住地(Public Use Microdata Areas)、学歴、世帯所得・規模に関する情報を抽出。これらのデータを、人種・民族、性別、年齢、居住地(郡)および暦年別の推定生命表(National Vital Statistics Systemの死亡統計データにベイジアン小地域推定モデルを適用して生成)と統合した。次にACSの個人データについて、前出の統合データを用いて教育年数、世帯消費、予想寿命を推定。これら3つの特性をパーセンタイルスコアを用いて指数変換し、それら3つの指数の幾何平均としてHDIを算出した。最後に、個人を年間HDIの十分位(10群)にグループ分けした。
人種・民族だけでなく、年齢群別、居住地による顕著な格差も明らかに
2008~21年の期間において、米国の成人のHDI(教育年数、世帯消費、予想寿命から成る)は大きく変化した。
ほとんどの人種・民族、性別のグループについて、平均HDIは2008~19年の期間において漸増し、2020年に予想寿命の低下によって減少した(ただし、人種・民族、性別によりHDIの分布には系統的な違いがあった)。
最低HDI十分位群で多かったグループ(特定の人種・民族、性別集団の10%超が分布されている)は、先住民(American Indian and Alaska Native:AIAN)の男性(最低HDI十分位群への分布率:50%[SE 0.2]、平均年間人口:37万人[SE 2,000])、黒人男性(40%[<0.1]、467万人[6,000])、AIAN女性(23%[0.1]、19万人[1,000])、ラテン系男性(21%[<0.1]、327万人[6,000])、黒人女性(14%[<0.1]、186万人[4,000])、ラテン系女性(13%[<0.1]、207万人[6,000])であった。しかしながら、全集団規模の違いを考慮すると、白人男性が最大の集団であり(最低HDI十分位全集団に占める割合:27%[<0.1]、587万人[1万2,000])、黒人男性(22%[<0.1])、ラテン系男性(15%[<0.1])と続いた。
これらのパターンには、注目に値する年齢群別の違いがあった。たとえば、25~44歳群では、AIAN男性(最低HDI十分位群への分布率:66%[SE 0.2]、平均年間人口:22万人[SE 1,000])および黒人男性(46%[<0.1]、252万人[5,000])の最低HDI十分位群への分布が多くみられ、85歳以上群の同AIAN男性(22%[1.1]、1万人[<1,000])および黒人男性(20%[0.3]、3万人[<1,000])よりも際立っていた。対照的に、25~44歳群では、アジア系女性の最低HDI十分位群への分布が少なかったが(2%[<0.1]、6万人[<1,000])、85歳以上ではアジア系女性の最低HDI十分位群への分布が多かった(25%[0.3]、3万人[<1,000])。また、25~44歳群の最低HDI十分位群は、主に男性で占められていた(最低HDI十分位集団に占める割合:76%[<0.1]、644万人[9,000])一方で、85歳以上の最低HDI十分位群は、主に女性で占められていた(71%[0.1]、42万人[2,000])。
最高HDI十分位群では、年齢群別の偏移は白人男性で大きく、25~44歳群において白人男性が占める割合は5%(SE 0.1、39万人[SE 1,000])であったが、85歳以上群では49%(0.2、29万人[1,000])であった。
2012~21年において、最低HDI十分位群の居住人口の割合は地域によって大きなばらつきがみられ、米国南部の大半を占める地域(アパラチア[ニューヨーク州からミシシッピ州まで伸びるアパラチア山脈周辺地域の田舎と都会と産業化された地域]、ラストベルト[中西部と大西洋岸中部地域の一部、脱工業化が進んでいる地帯])の居住者が占める割合が、不釣り合いに高かった。
著者は「これらの結果は不変なものではないが、改善は一定のものではなく、COVID-19パンデミックのような危機に直面した場合には、利益は一時的なものになる可能性がある。こうした格差を減らすには、誰もが質の高い教育に意義のあるアクセスができ、十分な所得を得る手段があり、長期にわたって健康的な生活を送るための機会を確保するための継続的な働きかけが必要であり、最も恵まれていない集団と地域に焦点を当てるべきである」と述べている。
(ケアネット)