私たちの生活で欠かせないものの1つに住宅がある。都市部では、持ち家よりも賃貸住宅が多くなるが、賃貸住宅も民間のもの、公団や公社、都営・市営などの公的賃貸住宅に分かれる。
賃貸住宅居住者は、持ち家居住者よりも社会経済的に不利な立場に置かれる傾向があるにもかかわらず、これまで持ち家居住者と比較した民間と公的賃貸住宅居住者の死亡リスクは不明のままであった。
そこで古賀 千絵氏(東京大学先端科学技術研究センター)と花里 真道氏(千葉大学予防医学センター)からなる研究チームは、9市町村の4万4,007人の高齢者を2010年から約9年間追跡し、居住住宅の種類と死亡リスクの関連を検証した。その結果、持ち家居住者が最も死亡リスクが低く、賃貸住宅の中では公的賃貸住宅に住む高齢者で最も死亡リスクが低いという結果だった。これらの結果はScientific Reports誌2024年3月30日号に掲載された。
賃貸住宅に住むなら公的賃貸住宅のほうが死亡リスクは低い
研究グループは、わが国の自立した65歳以上の高齢者を対象としたコホート研究である日本老年学的評価研究(JAGES)を利用し、回答者4万4,007人について、2010~19年まで9年間追跡調査を行い、死亡率を分析した。居住期間は質問票により定義し、死亡率のハザード比の算出はCox回帰モデルを用いた。また、賃貸住宅間の多重検定のためにボンフェローニ補正を用いた。
主な結果は以下のとおり。
・追跡期間中に全体で1万638例(24.2%)の死亡があった。
・持ち家居住者と比較し、すべての賃貸住宅居住者群で死亡リスクが有意に高かった。
・人口統計的変数、健康状態、社会的地位、環境で調整した後でも、賃貸住宅居住者の中では公的賃貸住宅に住んでいた人の死亡リスクが最も低かった。
・ボンフェローニ補正を用いた賃貸住宅居住者の多重検定では、公的賃貸住宅居住者は民間賃貸住宅居住者よりも死亡リスクが0.80倍(95%信頼区間:0.72~0.89)であることが示された。
・公的賃貸住宅居住の高齢者の死亡リスクは持ち家居住者よりも高かったが、このリスクは民間賃貸住宅居住者よりも低かった。
これらの結果から研究グループは「計画的な都市開発に基づく良好な近隣環境が、この結果に寄与した可能性がある。計画的な都市開発がわが国の賃貸住宅居住の高齢者の死亡リスクを低下させる」と考察している。
(ケアネット 稲川 進)