英国の過去20年の新薬導入、公衆衛生には損失大きい?/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2024/12/31

 

 2000~20年における英国国民保健サービス(NHS)による新薬提供は、公衆衛生にもたらした利益より損失のほうが大きかった。英国・ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのHuseyin Naci氏らが、後ろ向き研究の結果を報告した。英国では、国立医療技術評価機構(NICE)による新薬に関する推奨は、健康増進をもたらす可能性がある一方で、その資金を代替治療やサービスに利用できなくなるため、犠牲となる健康が生じる可能性がある。著者は、「今回の結果は、新薬から直接的な恩恵を受ける人々と、新薬への資源の再配分により健康を諦めることになる人々との間に、トレードオフが存在することを浮き彫りにしている」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年12月12日号掲載の報告。

2000~20年の間に承認された183品目について解析

 研究グループは、2000~20年にNICEの公開データベースに公表されている、英国における新薬の技術評価を特定した。評価中止、推奨されなかった、またはその後販売を中止した製品、ならびに医療機器、診断または介入手順に関するプログラムの評価は除外した。また、NICEが評価した医薬品については、承認から5年以内の製品を調査対象として、医薬品名、評価された適応症、医薬品およびその評価の特徴に関するデータを収集した。

 新薬の費用対効果を増分費用効果比(ICER)で、健康上の利益を質調整生存年(QALY)として算出。また、イングランドで2000年1月1日~2020年12月31日の間に販売された新薬の総量に関する独自のデータを用い、NICEが推奨する新薬を投与された患者数を推定した。

 各評価の健康への影響は、NHSで新薬を用いた場合に得られる獲得QALYと、同じ資金を他のNHSサービスや治療に再配分した場合に理論的に得られるQALY推定値の差分から算出した。新薬の増分費用をNHSの支出による健康機会費用で割ることにより、逸失QALY(forgone QALY)を算出した。

 NICEは2000~20年に332種類の医薬品を評価し、276品目(83%)が推奨され、このうち207品目(75%)は承認から5年以内に評価された。207品目のうち、適格基準を満たした183品目(88%)が今回の解析に含まれた。

新薬で375万QALYを得るも、純損失は125万QALY

 339件の評価全体における獲得QALYの中央値は0.49(四分位範囲[IQR]:0.15~1.13)で、これは完全に健康な期間の0.5年に相当した。

 新薬の推奨に対するICER中央値は、2000~04年に公表された14件の評価では獲得QALY当たり2万1,545ポンド(IQR:1万4,175~2万6,173)であったが、2015~20年に公表された165件の評価では2万8,555ポンド(1万9,556~3万3,712)に増加した(p=0.014)。ICER中央値は治療領域によって異なり、感染症治療薬12件の評価では6,478ポンド(3,526~1万2,912)であるのに対し、抗がん剤144件の評価では3万ポンド(2万2,395~4万5,870)であった(p<0.0001)。

 NICEが推奨した新薬を使用した患者1,982万人において、新薬の使用により推定375万QALYが追加されたが、新薬の使用によるNHSの追加費用は751億ポンドと推定された。同じ資源をNHSの既存サービスに用いた場合、2000~20年の間に500万QALYが追加で得られたと推定された。全体として、NICEが推奨した薬剤による累積的な公衆衛生への影響は負であり、純損失の発生は約125万QALYであった。

(ケアネット)