生命を脅かす重篤な疾患を呈し救急診療部(ED)を受診した高齢患者に対する、複数要素介入を取り入れた緩和ケア(Primary Palliative Care for Emergency Medicine:PRIM-ER)の開始は、入院率を改善せず、介入後の医療活用状況や短期死亡率にも影響を及ぼさないことが、米国・スローン・ケタリング記念がんセンターのCorita R. Grudzen氏らが実施した「PRIM-ER試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年1月15日号に掲載された。
米国の救急診療部のクラスター無作為化試験
PRIM-ER試験は、EDにおける救急医、医療助手、看護師などによる緩和ケアの実践を強化するための複数要素介入の評価を目的とするstepped-wedgeデザインを用いたクラスター無作為化試験であり、2018年5月~2022年12月に米国の29のEDで患者を登録した(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成を受けた)。
EDを初めて受診した66歳以上、Gagne comorbidityスコアが6点以上(短期的な死亡リスクが30%以上)のメディケア登録患者9万8,922例を対象とした(高齢者介護施設入居者は除外)。介入前の5万458例と介入後の4万8,464例を比較した。
PRIM-ERは主に次の4つで構成された。(1)エビデンスに基づく集学的な教育、(2)重篤な疾患のコミュニケーションに関するシミュレーションベースのワークショップ、(3)臨床意思決定支援、(4)EDの臨床スタッフに対する評価とフィードバック。
主要アウトカムは入院とした。副次アウトカムとして6ヵ月時の医療活用と生存を評価した。
副次アウトカムにも差はない
ED初診患者全体の年齢中央値は77歳(四分位範囲[IQR]:71~84)、女性が50%で、黒人が13%、白人が78%であり、Gagne comorbidityスコア中央値は8点(IQR:7~10)だった。
入院率は、介入前が64.4%、介入後は61.3%と差を認めなかった(絶対群間差:-3.1%、95%信頼区間[CI]:-3.7~-2.5、補正後オッズ比[OR]:1.03、95%CI:0.93~1.14)。
介入から6ヵ月時点の医療活用についても改善は得られず、ICU入室率は介入前が7.8%、介入後は6.7%(補正後OR:0.98、95%CI:0.83~1.15)、1回以上のED再診率はそれぞれ34.2%および32.2%(1.00、0.91~1.09)、ホスピス施設利用率は17.7%および17.2%(1.04、0.93~1.16)、在宅医療利用率は42.0%および38.1%(1.01、0.92~1.10)、1回以上の再入院率は41.0%および36.6%(1.01、0.92~1.10)であった。
死亡率、死亡例の生存期間にも差はない
6ヵ月以内の死亡率は、介入前が28.1%、介入後は28.7%だった(補正後OR:1.07、95%CI:0.98~1.18)。また、死亡例のED初回受診から死亡までの平均期間は、介入前が17.3(SD 38.8)日、介入後は17.1(37.7)日であった(補正後ハザード比:1.00、95%CI:0.93~1.08)。
著者は、「試験期間中のCOVID-19の世界的な大流行はED治療の状況に大きく影響し、患者の社会人口学的構成や疾患の重症度、入院の可能性などに変化をもたらした。たとえば、多くの在宅医療提供者やホスピス施設がCOVID-19患者の受け入れを拒否したか、人手不足であったか、これら双方であったため、これらのサービスの活用が困難であったり、入院を回避できなかった可能性がある。また、介入後の期間の大部分がCOVID-19大流行の期間中であったため、その後の医療活用の変化がその結果として生じたのか、あるいは介入そのものによるのかを知るのは困難である」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)