ALSへのσ1受容体作動薬pridopidineは有効か?/JAMA

提供元:ケアネット

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公開日:2025/03/03

 

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療標的として、運動ニューロンに発現しているσ1(シグマ1)受容体(S1R)が注目を集めている。米国・Barrow Neurological InstituteのJeremy M. Shefner氏らは、「HEALEY ALS Platform試験」において、ALSの治療ではプラセボと比較してS1R作動薬pridopidineは疾患の進行に有意な影響を及ぼさず、有害事象や重篤な有害事象の頻度に臨床的に意義のある差はないことを示した。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年2月17日号で報告された。

米国の無作為化第II/III相試験

 HEALEY ALS Platform試験は、第III相試験に進む有望な新規ALS治療薬を迅速かつ効率的に特定することを目的とする二重盲検無作為化第II/III相試験であり、プラセボ群の共有と継続的な参加者登録が可能な方法を用いて複数の試験薬を同時に評価可能である。pridopidineは4つ目の試験薬として選択され、2021年1月~2022年7月に米国の54施設で参加者を登録した(AMG Charitable Foundationなどの助成を受けた)。

 ALS患者162例(平均年齢57.5歳、女性35%)を登録し、pridopidine 45mg(1日2回)を経口投与する群に120例、プラセボ群に42例を無作為に割り付け、24週の投与を行った。また、プラセボ群に他の3つのレジメンの試験でプラセボの投与を受けた122例を加えた合計164例を共有プラセボ群とした。

 有効性の主要アウトカムは、ALSの疾患重症度のベースラインから24週目までの変化とした。疾患重症度は、機能(ALS機能評価スケール改訂版[ALSFRS-R]の総スコア[0~48点、点数が低いほど機能が低下])と生存の2つの要素で評価し、これらを統合して疾患進行率比(DRR、生存期間を考慮した疾患進行の評価指標)を算出した。DRRが1未満の場合に、プラセボ群に比べpridopidine群で疾患の進行が遅いことを示す。解析には、ベイズ流のアプローチによる共有パラメータモデルを用いた。

 有効性の主要アウトカムの解析の対象となった162例のうち136例(84%)が試験を完了した。

5つの主な副次アウトカムにも有意差なし

 主要アウトカムは、pridopidine群とプラセボ群に有意な差を認めなかった(DRR:0.99[95%信用区間[CrI]:0.80~1.21]、DRR<1の確率0.55)。ALSFRS-Rスコアの1ヵ月当たりの変化率は、pridopidine群で-0.99ポイント(95%CrI:-1.14~-0.84)、共有プラセボ群で-1.00ポイント(-1.14~-0.87)であった。また、死亡イベントの1ヵ月当たりの発生率は、pridopidine群、共有プラセボ群とも0.012件だった。

 以下の5つの主な副次アウトカムにも、pridopidine群とプラセボ群で有意な差はなかった。(1)ベースラインで球麻痺を有する患者におけるALSFRS-R総合スコアが2点以上低下するまでの期間、(2)ベースラインで球麻痺を有する患者における静的肺活量(SVC)の低下率、(3)ALSFRS-Rの球麻痺スコアが悪化しなかった患者の割合、(4)ALSFRS-Rの球麻痺スコアが1点以上変化するまでの期間、(5)死亡または永続的な換気補助(PAV)までの期間。

忍容性は良好、転倒と筋力低下が多い

 pridopidineの忍容性は良好であった。有害事象および重篤な有害事象の頻度に、両群間で臨床的に意義のある差はみられなかった。最も頻度の高い有害事象は、転倒(pridopidine群28.1%、共有プラセボ群29.3%)と筋力低下(24.0%、31.7%)だった。pridopidine群では、Fridericia式による心拍数補正QT(QTcF)間隔が臨床的に意義のある変化を示した患者はいなかった。

 著者は、「最大の解析対象集団(FAS)の探索的解析では、pridopidine群で発話速度の障害と構音障害に関して名目上有意な進行の抑制がみられ、このpridopidine群における発話の改善は、関連する脳幹領域にS1Rが高密度に分布することを反映している可能性がある」「本研究で実現されたプラセボ群の参加者の共有は、より効率的な試験の実施につながると考えられる」としている。

(医学ライター 菅野 守)