論文引用には、学究的な活用とは別に、説得のためのツールという側面がある。いわゆる引用バイアス(引用によって説得力が生じる)は、臨床治験報告で見られ、治療の有効性を間違った確信に誘導する可能性があると指摘される。米国ブリガム&ウィメンズ病院神経学部門/子供病院情報科学プログラムのSteven A Greenberg氏は、論文間での引用パターンを調べ、どのように論説が権威付けされるのかを考察した。BMJ誌2009年7月25日号(オンライン版2009年7月21日号)より。
PubMedを使って引用パターンを調べる
引用パターンを調べるために、PubMed全体からβアミロイドに言及している論文から成る、引用ネットワークを構築した。βアミロイドはアルツハイマー病患者の脳に蓄積する蛋白質で、発症要因とされる。また封入体筋炎患者の骨格筋を傷つけるとされている。
構築したネットワークは、引用バイアス、増幅、創作、権威付けへの影響を主要評価項目に、ソーシャルネットワーク理論およびグラフ理論によって解析された。
根拠のない権威は引用バイアスによって確立
ネットワークには、論説を支持する220,553の引用経路があり、242の論文、675の引用文が含まれていた。
反論論文、確信を弱める論文(誇張されていたり、データが示されていない論文)、1つの引用で仮説を事実へと変調させるような創作の類もあったが、根拠のない権威は引用バイアスによって確立されていた。
ネットワークは、米国国立衛生研究所が資金提供する助成金対象論文および情報公開法によって得られた対象論文にまで及び、同様の現象を示し、時に資金を要望するに足りる根拠を示すものとして使われていた。
Greenberg氏は「引用は、公明正大な学究的な方法であると同時に、ソーシャルコミュニケーションのための強力なフォームでもある。引用は、バイアス、増幅、創作を含む社会的活用というこじつけによって、情報カスケードを喚起するために使われることがあるようだ。それが結局は根拠のない権威づけに帰着するとしてもである。引用ネットワークの構築および分析は、公表された確信づけシステムの性質を明らかにでき、また、どんな風にゆがめられているのかを明らかにできるだろう」と結論している。