2012年1月、不眠症を適応とするエスゾピクロン(商品名:ルネスタ)が承認された。本剤は非ベンゾジアゼピン系に属するGABAA受容体作動薬であり、GABAの作用を増強することにより臨床効果を発揮すると考えられている。
わが国で増加する不眠症患者
現在、日本国民の約5人に1人が睡眠障害を抱えていると言われている。夜型社会への移行、交代勤務などの影響により睡眠覚醒リズム障害が増加している
1)。
また、高齢者では睡眠障害の頻度が高いことが知られており、高齢化社会を迎えるわが国において、睡眠障害への対応は今後ますます重要となる。
睡眠障害の中でも最も高頻度に認められるのが不眠症である。不眠症には入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害の4つのタイプがあり、中でも入眠障害は高頻度で認められる。加えて、中途覚醒を併発している症例も一定数存在すると言われている。
不眠症治療の課題
不眠症治療は本来単剤での治療が基本となっているが、複数の症状がある場合には多剤併用されることも少なくない。厚生労働省の調査によると、睡眠薬を2種類以上処方している割合は2009年で27.3%であり2005年と比較して3.2ポイント増加している
2)。
そして、不眠症治療薬の長期投与による耐性も問題となっている。本来、ベンゾジアゼピン系睡眠薬、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は適正に使用すれば耐性が生じることは少ないと言われているが、長期間・高用量の不眠症治療薬を投与することや、不眠の原因が解消されないうちに投与を中止してしまうことで、耐性を生じることがある。
また、患者の自己判断により急に減量したり中断したりすると反跳性不眠(治療前よりもさらに強い不眠が出現する)が見られることがあり、これも問題となっている。
エスゾピクロンの特徴
エスゾピクロンはラセミ体であるゾピクロンを光学分割して得られたS体でありGABAの作用を増強することで臨床効果を示す。T
maxは約1時間、T
1/2は約5時間であり超短時間型睡眠薬の中では長い部類に属する。国内外の臨床試験では不眠症の主症状である入眠障害と中途覚醒のいずれにも有効であることが示されている。
海外で実施された12ヵ月の長期投与試験において、エスゾピクロンは耐性を示さないことが報告されている
3)。米国では初めて投与期間に関する制限を受けない不眠症治療薬として承認を取得しており、幅広い患者に使用されている。
求められる不眠症治療薬の適正使用
不眠症を慢性化、難治化をさせず効果的に治療していくためには、正しい知識の普及と不眠症治療薬の適正使用推進が強く求められる。今後ますます不眠症患者が増加する中、新たな選択肢であるルネスタの登場は、患者ごとに合わせた不眠症治療の実現につながるものと考えられる。そして、患者の症状や薬剤の特性を理解したうえで、より適切な不眠症治療がおこなわれることが期待される。
(ケアネット 有田衣里)
1)内山真編. 睡眠障害の対応と治療ガイドライン. じほう, 2002.
2)抗不安薬・睡眠薬の処方実態についての報告. 厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム : 過量服薬対策ワーキングチーム. 2011.