「人工妊娠中絶は現代の最高度の人権に関わるジレンマであるがゆえに、科学的かつ客観的な情報が必須である」と著者は記す。そして、「微妙な問題であるためデータソースが限られ、正確な情報の入手が困難」とも。
望まない妊娠の低減を目的とする指針の策定には、人工妊娠中絶数の情報が重要である。また、妊婦の罹病および死亡の主な原因は安全でない妊娠中絶であることから、ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals; MDGs、http://www.undp.or.jp/aboutundp/mdg/)のひとつ「妊産婦の健康の改善」(MDG5)の達成に向けた進捗状況のモニタリングには危険な中絶の発生状況の把握も重要である。Guttmacher Institute(アメリカ・ニューヨーク市)のGilda Sedgh氏らは中絶率を世界規模で推計し、望まない妊娠や危険な中絶を減少させ安全な中絶を増加させる方策について考察を加えた。10月13日付Lancet誌掲載の報告から。
1995~2003年の中絶数、中絶率を世界および地域レベルで解析
各国の公式発表システムや調査報告、および公表された研究報告を用いて2003年度に実施された安全な人工妊娠中絶数を世界および地域レベルで算出した。危険な中絶の施行率の算出には病院データ、調査、その他の研究報告を用いた。
中絶数の推計、中絶率の算出には人口統計学的方法を用いた。女性集団および出生数は国連の推計値を、地域の定義には国連分類を使用し、1995~2003年の中絶数、中絶率を解析した。
中絶数、中絶率は低下、危険な中絶は増加、危険な中絶は途上国に集中
1995年の中絶数4,600万件に対し、2003年は4,200万件に減少していた。2003年の人工妊娠中絶率は15~44歳の女性1,000人あたり29件であり、1995年の35件よりも低下していた。中絶率は、西ヨーロッパが1,000女性あたり12件と最も低く、北欧が17件、南欧が18件、北米(アメリカ、カナダ)が21件であった。
全中絶のうち危険な中絶の割合は1995年の44%から2003年には48%に増加し、その97%以上が開発途上国で行われていた。2003年の全世界における100出生あたりの中絶率は31件であり、地域別には東欧で最も頻度が高かった(100出生あたり105件)。
妊産婦死亡率低減の実現に向け、避妊の必要を満たし、中絶の安全を確保せよ
Sedgh氏によれば、人工妊娠中絶の根本的な原因は望まない妊娠であるが、開発途上国では1億800万人の既婚女性が必要な避妊を行えず、避妊法を使用できない女性が毎年5,100万件の望まない妊娠をしているという。
同氏は、「1995年から2003年にかけて全体の中絶率は開発途上国と先進国で同等であったが、危険な中絶は途上国に集中していた」「妊産婦死亡率の本質的な低減を実現し、妊産婦の健康を保護するには、避妊の必要を満たし、すべての中絶の安全を確保する必要がある」と総括している。
(菅野 守:医学ライター)