フェンサイクリジン系麻酔薬であるケタミン(商品名:ケタラール)は、重症患者に対する迅速気管挿管時の鎮静薬として安全に使用でき、etomidateの代替薬となりうることが、フランスParis 第13大学のPatricia Jabre氏らが実施した無作為化試験で明らかにされた。重症患者は緊急の挿管を要することが多いが、鎮静薬として頻用されるetomidateは用量依存的な11βヒドロキシラーゼ阻害により可逆的な副腎の機能不全を引き起こす可能性があり、院内合併症罹患率の上昇を招くおそれがあるという。Lancet誌2009年7月25日号(オンライン版2009年7月1日号)掲載の報告。
87施設から655例を登録、最大SOFAスコアを評価
研究グループは、重症患者に対する迅速気管挿管時のetomidateとケタミンの単回投与法の安全性と有効性を評価する単盲検無作為化対照比較試験を実施した。
2007年4月~2008年2月までに、フランスの12の救急医療施設/病院救急部、および65の集中治療室(ICU)から、迅速気管挿管のために鎮静を要する655例がプロスペクティブに登録され、etomidate 0.3mg/kg(328例)あるいはケタミン2mg/kg(327例)を投与する群に無作為に割り付けられた。患者登録を行った救急医は薬剤の割り付けを知り得た。
主要評価項目は、ICU入院から3日目までの臓器不全評価(sequential organ failure assessment:SOFA)の最大スコアとした。病院到着前に死亡した症例やICUを3日以内に退院した症例は除外したうえで、modified intention to treat解析を行った。
SOFAスコア、挿管困難度は同等、副腎機能不全はetomidate群で有意に多い
解析の対象となったのは、etomidate群が234例、ケタミン群は235例であった。SOFAスコアは、etomidate群が10.3、ケタミン群は9.6で、差の平均値は0.7(95%信頼区間:0.0~1.4、p=0.056)であり、有意差は認めなかった。
挿管の状態にも有意な差はなく、挿管困難度スコア(スコアが上がるほど困難度が高くなる)の中央値は両群ともに1であった(p=0.70)。
副腎機能不全の発生率は、ケタミン群の48%に比べetomidate群では86%と有意に高かった(オッズ比:6.7、95%信頼区間:3.5~12.7、p<0.0001)。両群とも、重篤な有害事象は認めなかった。
著者は、「重症患者の迅速気管挿管時の鎮静薬として、ケタミンは安全に使用でき、有効性もetomidateと同等であることから、その代替薬となりうる」と結論し、「敗血症合併例では、有意差はないもののSOFAスコアおよび死亡率がケタミン群で優れる傾向がみられることから、これらの患者では特にケタミンを考慮すべきであろう」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)