インクレチン関連薬は、次のステップへ~ケアネット女性記者による第54回糖尿病学会レポート~

提供元:ケアネット

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公開日:2011/05/30

 



2011年5月19日(木)から3日間、札幌市にて、第54回日本糖尿病学会年次学術集会「糖尿病と合併症:克服へのProspects」が開催された。

会長の羽田勝計氏(旭川医科大学)は、会長講演にて、「糖尿病治療における細小血管および大血管障害の発症・進展が阻止されれば、健常人と変わらないQOLの維持、寿命の確保が可能になる」と述べ、合併症の克服により本学会のテーマである「克服へのProspects」が10年後には「克服可能」となることを期待したい、とのメッセージを伝えた。

また、今年3月に発生した東日本大震災を受けて、緊急シンポジウム「災害時の糖尿病医療」も開かれた。被災地での糖尿病医療や被災地外からの支援活動、阪神・淡路大震災などの過去の災害における経験が報告され、今後の災害時における糖尿病医療のあり方について討議された。

その他、「IDFの新しい2型糖尿病の治療アルゴリズム アジアへの適応は」、「J-DOIT1,2,3,JDCPからのメッセージ」、「インクレチン関連薬の臨床」といった数多くのシンポジウムが開催された。

多くのセッションが目白押しではあったが、今回、ケアネットでは特に「インクレチン関連薬」に注目した。昨年度のインクレチン関連薬発売ラッシュ以降、初の学会を迎えたことから、「インクレチン関連薬」にフォーカスしてレポートする。

【注目を集めたインクレチン関連薬】




昨年度は、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬の発売が相次ぎ、糖尿病治療の歴史にとっても大きな変革の年となった。

DPP-4阻害薬では、2009年12月のシタグリプチン(商品名:ジャヌビア/グラクティブ)を皮切りに、2010年にビルダグリプチン(商品名:エクア)、アログリプチン(商品名:ネシーナ)が発売、GLP-1受容体作動薬は、リラグルチド(商品名:ビクトーザ)とエキセナチド(商品名:バイエッタ)が医療現場に登場した。2011年には各薬剤の14日間の投薬期間制限が順次解除されるため、長期投与が可能となり、普及の勢いはさらに増すだろう。

本学会でも、DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬を総称する「インクレチン関連薬」が注目を集め、シンポジウム、一般講演、ポスターなどで多くの臨床成績が発表された。

【効果と安全性、薬剤間の明確な差は?】




発表されたデータは、ほとんどが各薬剤の「有効性」と「安全性」に関するものであった。

「既存薬からインクレチン関連薬への切り替えで、どの程度血糖値が低下するのか?本当に低血糖は起こさないのか?」という臨床現場の疑問が浮き彫りになった形だ。

その結果、多くのデータで各薬剤の有効性と安全性が明らかになった。しかし、これはすべての薬剤で同様の結果が報告されており、DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬との間での差はあるものの、同効薬群間での差は大きくはない。どの薬剤を使用しても一定の効果は得られそうだ。

【DPP-4阻害薬市場の激化は必至】




DPP-4阻害薬に関する各薬剤別の発表データについてみてみると、やはり先行して発売されたシタグリプチンを用いた報告症例が多い印象であった。ビルダグリプチン、アログリプチンについては適応上、透析を行うような重症腎機能障害例にも投与が可能(※ただし慎重投与)ということで、透析患者や腎機能低下症例への投与例の報告があった。

ただし、これらはあくまで一部のデータであり、実際の臨床現場において薬剤の使い分けに関する明確な指針や投与患者像を確立することは難しいだろう。

DPP-4阻害薬は期待が高いだけに、数多くの種類が市場に出回ることになる。どれを選択するかは現場の医師の手に委ねられることになるだろう。

【今後必要となるのは、効果不応例を早期に見分ける指標】




とはいえ、すべての患者にインクレチン関連薬が効果を示すというわけではなく、著効例と不応例に分かれる傾向が多くの報告で挙げられた。

当然、どのような患者に効果があるのか(最適患者像の探索)、そして不応例を早期に見分けるにはどうすべきか(検査指標とそのカットオフ値)にも注目が集まった。

その点に着目した解析結果も発表されたものの、サンプル数が少なく、発表により結果のばらつきがあり、多くの演題で「今後の長期的検討が必要」、「多くの症例蓄積が必要」というまとめに終わった。

来年以降、各薬剤の著効例、不応例のそれぞれの臨床的特徴を検討したデータが増え、投与患者像の明確化も進むのではないかと期待される。

【インスリンからの切り替え例の報告も】




演題の中には、既存経口薬以外にも、BOTやインスリン療法など、すでにインスリン注射を導入している患者からインクレチン関連薬へ切り替える例も報告された。当然、インスリン単位数の少ない症例がメインではあるが、インスリン療法で糖毒性をいったん解除することで内因性の基礎インスリン分泌能の回復が期待でき、その後のインクレチン関連薬の切り替えも奏功する可能性が示唆された。

切り替えが奏功した例の特徴としては、糖尿病の罹病期間が短く、合併症が少なく、食後のインスリン追加分泌が保たれたインスリン単位の少ない症例、などが挙げられた。インスリン療法からの切り替えがうまくいけば、患者にとっても朗報である。

また、インクレチン関連薬による治療の可能性も広がるだろう。切り替え時の高血糖などに留意は必要だが、安全性に配慮しながら、今後、治療が確立されることを期待したい。

【まとめ】




今回、多くのインクレチン関連薬の臨床データが発表された。今後さらにDPP-4阻害薬の種類が増える(※アナグリプチン、テネリグリプチン、リナグリプチン、サクサグリプチンが現在フェーズⅢの段階にある)ことを考えると、医師側は各患者にあった薬剤を医師自身の基準で選択していくことが求められそうだ。

インクレチン関連薬の発売を契機に、糖尿病治療は大きく変わり始めた。糖尿病治療の目標が、細小血管および大血管障害の発症・進展の阻止とその後の患者のQOLや寿命の確保にある以上、インクレチン関連薬をベースとした早期のエビデンス構築にも期待がかかる。10年後の「克服可能」な糖尿病治療に向け、インクレチン関連薬の今後の動きに注目したい。

(ケアネット 佐藤寿美)