塩分摂取によって血圧が上昇しやすい人と、そうでない人が存在するのはなぜか?―東大 藤田氏らが解明―

提供元:ケアネット

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公開日:2011/08/11

 

 血圧の塩分感受性の違いが生じるのはなぜか? 東京大学大学院医学系研究科の藤田敏郎氏らの研究チームが、腎臓のナトリウム排泄調節に関与する鉱質コルチコイド受容体(MR)の活性化に、細胞内シグナル分子であるRac1が関与していることを、米国の科学雑誌「Journal of Clinical Investigation」に発表した。

 本研究について藤田氏を取材した内容より、今回の研究結果の科学的な意義をまとめる。

「食塩感受性」の違いが何によって規定されるかは謎であった

 かつて、わが国には高血圧が多く、脳卒中が多発した理由の一つとして、食塩の過剰摂取が挙げられていた。食塩の摂取量が多くなると血圧が高くなることは、INTERSALT研究などの結果より、24時間蓄尿でみた食塩摂取量の多い集団では血圧が高く、個人の食塩摂取量と血圧の間にも正の相関がみられるなど疫学的な見地からも裏付けられている。しかし、塩分の摂取により、すべての人で一律に血圧が上昇するわけでなく、塩分に対する血圧の反応性には個人差があり、塩分摂取によって血圧上昇が鋭敏な集団が存在する。いわゆる「食塩感受性高血圧」だ。この「食塩感受性」の違いが何によって規定されるかは、最近まで明らかにされていなかった。

アルドステロンに依存しない昇圧系が存在

 血清アルドステロンの上昇によって、腎臓でナトリウムの再吸収が促進され、血圧が上昇することは古くから知られている。最近では、アルドステロンの受容体であるMRが腎臓以外にも脳、心臓、血管など見出され、腎臓を介する古典的な昇圧作用に加えて、アルドステロンの中枢性・末梢性昇圧作用が指摘されている。

 一方、健康な人では塩分を過剰に摂取すると、ネガティブ・フィードバックが働いて血清アルドステロン濃度は低下する。それにもかかわらず、MRが活性化し、その結果、血圧が上昇するというアルドステロンに依存しない昇圧系が存在することが見出された。藤田氏らは、このアルドステロン非依存性の昇圧系に関して、細胞内シグナル分子Rac1に着目し、アルドステロンに依存しないMR活性化メカニズムを解明し、その研究結果を2008年Nature Medicine誌に発表した。

食塩感受性高血圧にRac1を介したMRの活性化が関与

 今回、明らかにされたのは、次の2点。

1.腎Rac1活性の差異が食塩感受性の個体差を来す
2.塩分過剰摂取によりRac1を介する経路でMRが病的に活性化され高血圧が引き起こされる

 今回、藤田氏らは高食塩食により血圧上昇を来す食塩感受性高血圧ラット(Sラット)と、塩分負荷に対して血圧上昇を来さない塩分抵抗性正常血圧ラット(Rラット)の2種のモデルラットに対し、同量の塩分を負荷し、食塩感受性の差異を説明する分子の探索を試みた。

 その結果、血清アルドステロン濃度は、塩分負荷に伴って両モデルラットで同程度抑制されていたにもかかわらず、Sラットでは塩分負荷により腎MR活性上昇し、Rラットでは抑制されていた。

 一方、腎Rac1活性は、Sラットでは塩分負荷により上昇したのに対し、Rラットでは低下していることが明らかになった。すなわち、食塩感受性ラットでは塩分摂取によって、血清アルドステロン濃度は抑制されているにもかかわらず、腎Rac1活性が上昇し、腎MR活性も上昇する。逆に、Sラットに対し、Rac1阻害薬を投与し、腎Rac1活性を抑制したところ、MR活性の低下とともに高血圧の顕著な改善が認められた。

 以上のことから、藤田氏らは食塩感受性高血圧にRac1を介したMRの活性化が関与していると結論づけている。

 食塩感受性の個体差は3つの系が複合的に作用している
藤田氏は、食塩感受性は、アルドステロンを介する系、交感神経を介する系、そしてRac1を介する系があるとし、これら3つの系が何らかの割合で寄与していると述べる。

 既報の通り、今年4月には、塩分摂取などの環境因子が、腎臓における交感神経活性の亢進が血圧を上昇させるかについて、食塩排泄性遺伝子WNK4遺伝子の転写活性を抑制し、食塩感受性高血圧を発症させることを「Nature Medicine」誌に発表している。

 WNK4遺伝子に関わるアセチル化を阻害する「ヒストン修飾薬」、アルドステロン非依存的なRac1-MR系を阻害する「Rac1阻害薬」などの開発において、選択性が高く、副作用を軽減でき最大限の主作用が発揮できる用量の探求が達成できると、これら薬剤の臨床応用が可能となり、我々が新たな血圧調整の手段を入手できる日も遠くはないと藤田氏は述べる。

(ケアネット 藤原 健次)