【日本癌治療学会2012】膀胱がん治療の過去と未来(筋層非浸潤性膀胱がん)

提供元:ケアネット

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公開日:2012/11/09

 

 第50回日本癌治療学会学術集会(2012年10月25日~27日)のシンポジウム「泌尿器がん治療の過去と未来」にて、大園 誠一郎氏(浜松医科大学泌尿器科)は、「筋層非浸潤性膀胱がんの治療」と題して、筋層非浸潤性膀胱がんの治療における、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)の意義、BCGの維持療法、高齢者などに対する副作用を考慮した低用量BCG、そして今後の展望について講演を行った。

TURBT再手術(セカンドTURBT)の意義

 大園氏はまず、NCCNや日本泌尿器科学会による膀胱がんの診療ガイドラインを紹介した。筋層非浸潤性がんでは、膀胱の温存を目的としてTURBTが施行される。その後リスク分類に応じて、低リスクでは抗がん剤即時単回注入のみ、中リスクでは抗がん剤即時単回注入に続いて抗がん剤あるいはBCGの注入が行われ、中~高リスクに対してはセカンドTURBTが推奨される。

 TURBTで完全切除を行っても残存腫瘍が認められることが多い。すなわち、初回TURBT後には76%に残存腫瘍があるとした報告(Herr HW. J Urol. 1999; 162: 74-76)に始まり、諸家により追試が行われ、まとめるとT1(粘膜下結合組織までの浸潤)腫瘍ではセカンドTURBTにより約45%の残存腫瘍が認められることが明らかになった(Schwaibold HE, et al. BJU Int. 2006; 97: 1199-1201)。さらに、セカンドTURBTの有用性を検討したプロスペクティグなランダム化試験も行われ(Divrik RT, et al. Eur Urol. 2010; 58: 185-190)、無再発生存率(59% vs. 32%、p=0.0001)および無増悪生存率(93% vs. 79%、p=0.0001)ともに、セカンドTURBTをルーチンに施行した群が非施行群に比較して有意に優っていた。

 これらのエビデンスに基づいて、欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインでは、多発および大きい腫瘍、病理組織に筋層が含まれていない場合、高グレードTa/T1またはT1腫瘍に対し、セカンドTURBTを考慮すべきとしている。NCCNガイドラインでも高グレードTaまたはT1腫瘍ではセカンドTURBTが施行される。日本泌尿器科学会の診療ガイドラインでも、高グレードT1腫瘍または病理組織に筋層が含まれていない場合には、セカンドTURBTが推奨レベルAとなっている。

 さらに大園氏は、グレード3T1腫瘍に対してセカンドTURBTを施行して、T0となった症例をBCG膀胱内注入群と非注入経過観察(Watchful Waiting)群とにランダム化割り付けを行い、膀胱内再発率および進展率を比較するJCOG-1019試験が進行中であることを紹介した。

BCG膀胱内注入および維持療法の意義と課題

 米国におけるBCG膀胱内注入維持療法の無作為化比較試験(SWOG8507試験、Lamm DL, et al. J Urol. 2000; 163:1124-1129)では、高リスクのpTaT1上皮内がん(CIS)においては、コンノート株を用いたBCG導入療法単独群に比べ、導入療法に続いて維持療法を施行した群(導入療法開始から3年間)において有意な予後改善効果が得られた。とくに無再発生存期間中央値は2倍以上に延長し(77ヵ月vs. 36ヵ月、p<0.0001)、無増悪生存率にも有意差が認められた。

 その後、9つの無作為化試験に登録された2,820例のメタ解析(Malmstrom PU, et al. Eur Urol. 2009; 56: 247-256)から、再発予防においてマイトマイシンCに比べBCG維持療法が優ることが報告された。

 日本におけるBCG膀胱内注入維持療法の無作為化比較試験としては、エピルビシン群を対照群とし、コンノート株を用いた導入療法のみの群と維持療法を加えた群を比較する試験(PMCJ-9第Ⅲ相試験、Hinotsu S, et al. BJU Int. 2011; 108: 187-195)が実施されている。本試験では、エピルビシン群と比較して、BCG群(BCG導入療法群+維持療法群)で膀胱内無再発生存期間において有意な改善が認められた。また、維持療法施行群が導入療法のみの群よりも再発までの期間を有意に延長した。

 これらのエビデンスより、日本泌尿器科学会の診療ガイドラインでBCG維持療法はTURBT施行後の高グレードの筋層非浸潤性膀胱がん、および上皮内がんに対して推奨レベルBとされている。

 BCG膀胱内注入においては、副作用低減の目的から、BCGの減量が検討されている。BCG 81mgと27mgの比較では再発までの期間に差が認められず、全身性・局所性ともに有害事象が認められなかった症例の割合は、81mg群に対し、27mg群では有意に少ないことが示された(Martinez-Pineiro JA, et al. J Urol. 2005; 174: 1242-1247)。

 日本でもBCG東京172株を用いたヒストリカル・コホート研究が行われ(Yoneyama T, et al. Urology. 2008; 71: 1161-1165)、80mgと40mgでは無再発生存率と無増悪生存率に差はなかった。現在、BCG日本株を用いて80mgと40mgの有用性を比較する医師主導型の無作為化第III相試験が進行中であり、2011年1月に160例の登録が完了した。

 また、大園氏は、BCG膀胱内注入の課題として、病勢増悪を抑制できていないことを挙げた。一方、T1グレード3の高リスク筋層非浸潤性膀胱がんを対象として、TURBT後にBCG注入を行った群と診断後ただちに膀胱全摘術を行った群を比較した試験(De Berardinis E, et al. Int Urol Nephrol. 2011;43:1047-1057)では、無増悪生存率および膀胱がん特異的生存率には両群で差はなかったものの、全生存率はBCG群のほうが高いという結果であったことから、高リスク筋層非浸潤性膀胱がんに対して、まずBCG注入療法によるコントロールを試みることの重要性を強調した。

 大園氏はBCG膀胱内注入療法の限界として、「約20%の患者が副作用のためにBCGに忍容性がないこと」、「約30%の患者がBCGに奏効しないか、5年以内に再発すること」、「セカンドラインのBCG注入を行っても長期間治療できるのは20~30%であること」などを挙げた。今後、これらの課題の克服と、BCGに対する効果予測因子の同定ならびにBCG注入療法の適切な注入レジメンの検討が求められる。

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(ケアネット)