2013年6月7日(金)、千代田区丸の内にて、島根大学医学部 内科学講座第二 教授 木下芳一氏による「機能性ディスペプシア(FD)」のメディアセミナーが開催された(主催:ゼリア新薬工業株式会社/アステラス製薬株式会社)。
機能性ディスペプシア(FD:functional dyspepsia)とは?
FDは、機能性消化器疾患の国際的診断基準であるRome III基準で「食後のもたれ感・膨満感、早期満腹感(飽満感)、心窩部痛(みぞおちの痛み)などの消化器症状を訴えるが、原因となる器質的疾患が見当たらない疾患」と定義されている。これまでFDは「慢性胃炎」と診断されることが多かった。日本国際消化管運動研究会2006では、上腹部症状を有する症例のうち、9割以上の症例では器質的疾患が無かったと報告されている。
FDの原因は?
FDは以下のようなさまざまな原因が考えられている。
1) 胃排出能異常、胃の適応性弛緩障害
2) 胃酸分泌過剰、分泌異常
3)ヘリコバクター・ピロリ(
H.pylori)の感染などによる胃粘膜の炎症
4) 消化管知覚過敏
5) 心理的要因
同じFD患者でも、それぞれの病態・病因が異なっているのが現状のようだ。
世界初のFD治療剤アコチアミド新発売
これまでFDに対して適応を有する薬剤はなかったが、2013年6月6日(木)、世界初となる機能性ディスペプシア治療剤「アコファイド錠100mg」(一般名:アコチアミド塩酸塩水和物)が発売された。アコファイドは消化管運動に重要な役割を果たす神経伝達物資アセチルコリンの分解酵素である末梢のアセチルコリンエステラーゼを阻害することにより、上記1)に該当する胃排出能異常、胃の適応性弛緩障害を改善させ、胃もたれや早期飽満感に効果が期待される。
アコファイドの臨床試験結果
食後の膨満感、上腹部膨満感、早期満腹感を有するFD(Rome III)例(892例)を対象としてアコチアミド100mg×3/日、28日間の投与とプラセボ投与の大規模多施設ランダム化二重盲検試験(第3相)が行われ、治療効果についての全体的な印象(overall treatment efficacy)と3症状(食後の膨満感、上腹部膨満感、早期満腹感)の消失率の2つの主要エンドポイントにおいて、アコチアミド投与群で有意に改善したことが報告されている。また、本試験における有害事象発現率と副作用発現率については、プラセボ投与群との間に統計的な有意差は認められていない。
FDに対する診断と治療
胃がんなど他疾患の可能性を除外した上で、FDと診断した場合には
H.pyloriの検査が推奨される。感染が認められる際は除菌治療を行い、感染が認められない場合、または除菌後も症状が持続する場合には、低脂肪のものを少量食べるなどの食事療法を実施する。さらに患者さんの愁訴があれば、胃痛が中心の場合には胃酸分泌抑制剤などを投与し、胃もたれが中心となる場合には、アコチアミドなどの消化管運動機能改善薬を投与するというのがひとつのフローとなる(場合によっては両薬剤の併用を考慮し、それでも症状改善が十分でない場合には抗うつ薬や抗不安薬を検討する)。
先述のようにFDの原因はさまざまであるが、以前に比べ、多様な治療が可能になりつつあると木下氏は述べている。アコファイドの発売によりFD患者の自覚症状の改善やQOL向上が期待されるとともに、FD治療の幅が広がることは多くの医療関係者にとってベネフィットになると言えよう。
(ケアネット 鎌滝 真次 )