6月24日、金原出版は、患者向けの解説書である『患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド(第1版)』(特定非営利活動法人 日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン委員会編)の出版を記念し、編者の1人である佐藤 哲観氏(弘前大学医学部附属病院 麻酔科 緩和ケア診療室)を講師に迎え、「がんの痛みはとれるんです!」と題するプレスセミナーを開催した。同書は、患者にがん性疼痛管理の内容を知ってもらうために制作されたものである。
セミナーで佐藤氏は、男女ともに毎年増加を続けるがん患者の動向などを前置き後、患者が抱える4つの痛み(がん疼痛、治療の際の痛み、身体衰弱による痛み、他の疾患の痛み)、そしてこれらの痛みはWHO方式のがん疼痛治療の手引きに従えば、80%以上は除痛可能であることを解説した。
しかしながら、除痛可能にもかかわらず、わが国では、医療者側の痛みへの認識不足や知識・治療のスキル不足、医療システム上の医療用麻薬管理の煩雑さや保険上の査定の問題、患者側のさまざまな誤解や迷信などの障壁があり、まだまだ臨床現場で疼痛管理の薬物使用が低調であると問題点を指摘した。また、医療用麻薬の消費量でみると欧米先進国と比較し、わが国は1/10~1/40とかなり低いレベルにあると一例を挙げた。
現状のこうしたさまざまなバリアを克服するために佐藤氏は、医療者には卒前教育の充実やがん診断時からの疼痛管理介入の教育活動を行っており、とくに医師に対しては、日本緩和医療学会における2日間のワークショップで、緩和ケアの知識の普及を目指す「PEACE project」(http://www.jspm-peace.jp/)を推進していることなどを紹介した。また、患者に対しては、「医療用麻薬を使うと中毒になる」や「がんの痛みは治療できない」などの誤解を払しょくするために、本書のような書籍を用いて広く啓発活動を行っていきたいと今後の展開を示した。
現在、WHOの手引では、3段階の鎮痛薬による「除痛ラダー」が示されている。その中でわが国で使用できるオピオイド鎮痛薬は、コデイン、トラマドール、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、メサドン、タペンタドール(2014年3月製造販売承認)の7種類があり、錠剤だけでなく、注射薬、貼付薬などのほかに舌下錠や頬粘膜吸収錠と剤形も豊富にそろい、使いやすくなっていると紹介した。また、頬粘膜に塗布するスティック型や頬粘膜吸収型フィルムなどわが国未発売の製品の存在、鼻噴射型の薬剤も海外で開発途上にあることなど最新のオピオイドの現状を披露した。
今後の課題としては、医療者には、早い段階からのがん性疼痛への介入と患者の痛みの汲み取り、積極的な医療用麻薬の使用などを教育するとともに、患者には、痛みを我慢せずに医療者に伝えること(そのためのメモや「痛み日記」の励行など)、鎮痛薬使用を恐れないことを啓発していきたいとまとめ、セミナーを終了した。
なお医療者向けには『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2014年版 (第2版)』も同時出版されている。
詳しくは金原出版まで
(ケアネット 稲川 進)