乳がんの抗HER2療法はトラスツズマブの登場後、飛躍的な進化を遂げているが、さらに新たな展開が期待できそうである。2014年8月28日~30日、横浜市で開催された日本癌治療学会学術集会にて、米国スタンフォード大学のMark D.Pegram氏が「New paradigms in the treatment of HER2+ BC」と題し、抗HER2療法の3つの新しいアプローチについて紹介した。
Fc最適化抗体(Fc engineered antibody): MGAH22(Margetuximab)
Fc最適化抗体は、抗体のFc領域を修飾することでADCC(Antibody-Dependent-Cellular-Cytotoxicity:抗体依存性細胞傷害)活性を強固にしており、乳がんや胃がん、大腸がんなど多がん種で研究が進んでいる。
ヒトエフェクター細胞の存在下、乳がんおよび大腸がん細胞へのADCC活性をみた前臨床試験では、Fc最適化抗体はwild typeの抗体に比べ高い細胞毒性を示した。これは、Fcγレセプター結合親和性の程度にかかわらず、同じ傾向であった。
また、乳がんをはじめとした低HER2 発現(1+2+)腫瘍での試験においても、Fc最適化抗体はwild typeの抗体に比べ高いADCC活性を示した。
in vivo試験は、異種移植モデルを用い低HER2発現(2+)腫瘍で行われた。wild typeの抗体(トラスツズマブ)は高用量であってもわずかな効果しか示さなかったのに対して、MGAH22はより強固な腫瘍縮小効果を示した。
第I相試験の結果はASCO 2014で発表された。高度な治療歴を有する患者、さまざまなHER2感受性の患者が含まれるなかで、MGAH22は乳がんをはじめ大腸がん、胃・食道がんなど多くのがんで効果(PR)を示している。MGAH22の有害事象は、インフュージョンリアクションが最も多かった。いずれの副作用も軽度から中等度であった。
MGAH22はすでに第II相試験も進行中である。この試験はIHC 2+(またはHER-Mark Intermediate)、FISH陰性といった低HER2発現例を対象とし、2段階で行われる。今年中に第1段階を終了し、第2段階への結論を出す予定。幅広いがん種への効果、HER2低発現例への効果などは、今後の抗HER2抗体療法の応用範囲を広げられる可能性を示唆する。
抗CD137作動性抗体
CD137はヒトのNK細胞に表出しており、HER2陽性乳がん細胞にトラスツズマブが結合することで高発現する。
抗CD137作動性抗体は、CD137を刺激し標的腫瘍に対するNK細胞の攻撃を促しADCCを増強する。
NK細胞存在下で抗CD137作動性抗体およびトラスツズマブを投与しADCC(Antibody-Dependent-Cellular-Cytotoxicity:抗体依存性細胞傷害)活性をみたin vitro試験では、抗CD137作動性抗体とトラスツズマブの併用群は、トラスツズマブ単独群に比べ有意にADCCを増強させることが示されている。
乳がん細胞の異種移植モデルを用いたin vitro実験では、HER2陽性腫瘍において抗CD137作動性抗体とトラスツズマブの併用群は、トラスツズマブ単独群に比べ有意に腫瘍増殖を抑制した。この薬剤については、来年の臨床試験の開始を目指すという。
抗CD47抗体
正常細胞は表面にCD47を提示している。CD47はマクロファージのSIRPα(阻害受容体シグナル制御蛋白α)と結合し、マクロファージに対する抗貪食シグナルを引き出す。これによって、正常細胞はマクロファージの貪食機能を回避している。
がん細胞はある種の蛋白を生成し、貪食作用促進(Pro-phagocytic)シグナルを出しマクロファージの注意を引く。しかし、同時にCD47を大量に発現することで、CD47/SIRPα結合が優勢となり貪食が回避される。
抗CD47抗体を加えるとCD47/SIRPα結合が阻害される。正常細胞では貪食促進シグナルが出ていないので何も起こらないが、腫瘍では貪食作用促進(Pro-phagocytic)シグナルが正体を現す。これにより、マクロファージのがん細胞貪食を促し抗腫瘍効果を発揮する。ヒト化抗CD47抗体であるHu5F9-G4はヒトIgGの骨格を持ち、CD47への高い結合親和性を有する。
乳がんの異種移植モデルを用いたin vivo試験では、抗CD抗体が腫瘍成長を阻害することが示されている。この観察試験は、乳がん以外のがん種でも行われている。
また、抗腫瘍抗体との相乗効果をみた試験も行われている。未治療のHER2陽性乳がん異種移植モデルにおいて、Hu5F9-G4とトラスツズマブを投与して腫瘍成長を評価した結果、Hu5F9-G4単独群、トラスツズマブ単独群とも効果は認められるが、両者の併用投与ではそれら単独群に比べ著明に腫瘍成長を阻害した。この試験は、リンパ腫のリツキシマブ、大腸がんのセツキシマブ、パニツムマブでも行われる。Hu5F9-G4については第I相用量決定試験がごく最近始まっている。
(ケアネット 細田 雅之)