HER2低発現乳がんは、HER2ゼロ乳がんとは異なる生物学的サブタイプとして考えるべきかどうか。米国・Dana-Farber Cancer InstituteのPaolo Tarantino氏らが、Stage I~III乳がんにおけるHER2低発現と臨床病理学的特徴および予後の関連を調べたところ、ホルモン受容体(HR)陽性およびトリプルネガティブ(TN)乳がんにおいて、HER2低発現乳がんを明確な生物学的サブタイプとは解釈できないという結果が示された。JAMA Oncology誌オンライン版2022年6月23日号に掲載。
HER2低発現例とHER2ゼロ例の臨床病理学的特徴と予後を比較
本研究は、Dana-Farber Brigham Cancer Centerで2016年1月~2021年3月に手術したすべての乳がん患者の前向きデータベースから、Stage I~IIIのHER2陰性浸潤性乳がん患者5,235例を対象とし、2021年9月~2022年1月のデータを解析した。HER2低発現(IHCスコアが1+もしくは2+でISH陰性)およびHER2ゼロ(IHCスコア0)の患者における臨床病理学的特徴および病理学的完全奏効率(pCR)、無病生存期間(DFS)、遠隔無再発生存期間(DDFS)、全生存期間(OS)を比較した。
HER2低発現と臨床病理学的特徴および予後の関連を調べた主な結果は以下のとおり。
・Stage I~IIIのHER2陰性浸潤性乳がん患者5,235例のうち、5,191例(99.2%)が女性で、初回手術時の年齢中央値(範囲)は59.0歳(21.0~95.0)、HER2低発現例は2,917例(55.7%)、HER2ゼロ例は2,318例(44.3%)だった。
・HRの発現は、HER2低発現例が90.6%で、HER2ゼロ例の81.8%より有意に多かった(p<0.001)。
・エストロゲン受容体(ER)レベルとHER2低発現の割合は正の相関を示し、低ER患者はHER2ゼロが多く、高ER患者はHER2低発現が多かった。
・術前化学療法を受けた675例におけるpCR率は、HER2ゼロ例のほうがHER2低発現例より高かった(26.8% vs.16.6%、p=0.002)が、HR陽性、低ER、低ERを除くHR陽性、TNの患者を別々に分析すると有意な差はなかった。
・探索的生存解析では、HR陽性およびTN乳がんの患者では、HER2低発現例とHER2ゼロ例でDFS、DDFS、OSに差はみられなかった。
著者らは「この結果は、HER2低発現乳がんを明確な生物学的サブタイプとして解釈することを支持するものではなかった」とし、「HER2低発現はERレベルと正の相関があり、HER2ゼロ例では低ER例が多く、また低ER例の予後が悪いことから、HER2低発現例の予後解析の交絡に関連しているかもしれない」としている。
(ケアネット 金沢 浩子)