慢性疼痛 患者の性差を考慮した対処を

提供元:ケアネット

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公開日:2015/05/01

 

 2015年4月22日、都内にて「性差と痛み」に関するプレスセミナー(主催:ファイザー株式会社・エーザイ株式会社)が行われた。

 痛みの実態は「不快な感覚と情動体験」であり、実体がなく他人と共有できないため、その対処法や考え方には個人差が出やすい。従来、痛みの感じ方には性差があり、妊娠・出産を経験する女性のほうが男性より痛みを感じにくいと言われてきた。また、一般的に日本人は「我慢は美徳」とされ、とくに男性は我慢することが「男らしさ」であると教育される傾向にあった。

痛みの男女差に関する意識調査概要
 痛みを評価していくうえで、男女の違いは本当にあるのだろうか?
 ファイザー株式会社は、長く続く痛みを抱える人の、痛みへの対処法・考え方を把握することを目的として、2015年3月27日~3月31日にインターネット調査「男女比較:長く続く痛みに関する実態調査2015」を行った。調査対象は、長く続く痛みを抱える全国の20歳以上の男女9,400人(男女各4,700人)であった。

※:本調査における長く続く痛みを抱える人の定義:「週2回以上の頻度で痛みが起こる」、「1ヵ月以上痛みが続いている」人を対象

主な調査結果
(1)長く続く痛みを抱える人で、現在通院している人は男女ともに約2割であった。
(2)痛みを感じたときに最初にとる行動は「塗り薬・貼り薬の使用」(26.0%)が最多だが、男性は「我慢する」(男性24.0%、女性18.2%)、女性は「痛み止めを飲む」(男性9.3%、女性15.1%)傾向が比較的高かった。
(3)長く続く痛みを周囲に伝える理由は、男性は「自身の痛みのせいで周りに迷惑をかける可能性があるから」(34.6%)、女性は「話すことで自分が安心するから」(36.1%)が最多であった。
(4)痛みを感じるときにパートナーに期待する行動は、男性は「そっとしておいてくれること」(69.2%)、女性は「できないこと(家事など)を代わりにしてくれること」(83.1%)が最多であった。
(5)疼痛に関する情報で重視する情報源は、「通院先の医師の指示」(85.3%)が最多だが、とくに女性は「友人の勧め」や「他人の体験談」など周囲の意見も大切と考える傾向にあった。
(6)全体の約7割が「男より女のほうが痛みに強い」と考えていた。
(7)全体の半数以上が「痛みがあってもある程度我慢するべきだ」と考えていた。

性差の背景に、男の「プライド」・女の「共感」
 本調査より、長く続く痛みの対処法と、痛みを周囲に伝えるコミュニケーション方法に男女差があることが判明した。また、女性が痛みに強いという通説を男女の大半が支持していたが、男性は痛みを我慢し、女性は早期の段階で自己対処する傾向が高いことも明らかになった。
 しかし、女性は痛みについて幅広い人に相談したり、口コミを探ったりするなど、さまざまな情報を取り入れるあまり、情報に振り回され専門家の診断に行き着くまでに遠回りし、痛みの慢性化・治療の難渋が生じる危険性があることも示唆された。

 今回の調査結果について、演者の五百田 達成氏(作家・心理カウンセラー)は、「一般に男性はプライドや体裁を重視し、自分の弱みやプライベートを知られたくないと思う一方で、女性は共感されたいという欲求があるため、個人的な情報も積極的に共有する。この違いが今回の結果に反映されたのではないか」と語った。

慢性疼痛の経済損失は年間1兆8,000万円!
 慢性的な痛みを抱えている患者は2,700万人と推定され、日本における慢性疼痛による経済損失は約1兆8,000万円にも上るため、早急な対策が望まれる。さらに、高齢者においては、痛みによるADLの低下は明らかであり、早急に痛みの緩和を行うことが求められている。

 演者の井関 雅子氏(順天堂大学 医学部 麻酔科学・ペインクリニック講座 教授)は、「男女で痛みに対する対処法や他者へのニーズが異なる傾向にある。痛みには種類があり、自己判断による対処では治らない可能性もある。早期から専門機関を受診し、適切な治療を開始することで、痛みの慢性化を防ぐことができる。患者のニーズに合った方法で早期受診を促していくべきだ」と力説し、セミナーを結んだ。

【参考】
ファイザー株式会社「男女比較:長く続く痛みに関する実態調査2015」

(ケアネット 中野敬子)