甲状腺がん治療は手術が第1選択であるが、切除不能な場合の治療選択肢は限られていた。近年、根治切除不能な甲状腺がんに有効な分子標的薬が登場し、期待されている。6月11日、都内で「甲状腺がん-その実態と治療 最前線」と題したプレスセミナー(主催:エーザイ株式会社)が開催され、国立がん研究センター東病院頭頸部内科 科長の田原 信氏が、甲状腺がんの治療の実際、分子標的治療から今後の課題を含めて解説した。
甲状腺がんの治療の実際
甲状腺がんは、組織型により、乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、未分化がんに分類され、分化がんである乳頭がんと濾胞がんで全体の約9割以上を占める。分化型甲状腺がん(DTC)は比較的予後が良いとされるが、その1割は進行例、再発例、遠隔転移例といった高危険群である。
DTCに対する治療は、欧米では甲状腺全摘後アブレーション(放射性ヨウ素[RAI]によるアジュバント療法)が標準であるのに対し、わが国では部分切除することが多く、高リスク例のみ全摘する。部分切除が多い理由として、反回神経麻痺などの合併症回避、甲状腺機能の温存、発育がゆっくりかつ予後良好であることのほか、RAI治療実施可能施設に限りがあることが挙げられる。近年、甲状腺がん治療病床数が減少してきているが、RAI内用療法の件数は増加しており、待機期間が平均5.2ヵ月、なかには1年以上待っている患者もいることを挙げ、田原氏は問題視している。
分子標的薬の登場
甲状腺全摘後のRAI治療に不応となったDTC患者の予後は悪く、10年生存率は約10%、転移病巣発見からの生存期間中央値は3~5年程度である。これらの患者に対する殺細胞性抗がん剤について国内で承認されている薬剤は1剤もなく、有効な薬剤が待ち望まれていた。そのような中、分子標的薬であるチロシンキナーゼ阻害薬が抗腫瘍効果を発揮することが確認され、現在、ソラフェニブ(商品名:ネクサバール)が「根治切除不能な分化型甲状腺がん」、レンバチニブ(商品名:レンビマ)が「根治切除不能な甲状腺がん」に承認されている。
分子標的治療の今後の課題
このように甲状腺がん治療に分子標的薬が使用できるようになった現在、わが国における今後の課題として、田原氏は、対象や開始時期といった分子標的薬の適正使用および適切な支持療法の実践を挙げた。
まず、適正な対象について、臨床試験で安全性・有効性が確認された対象の患者、すなわち根治切除不能な患者であることを強調した。田原氏が他の医師からよく相談を受けるという術前・術後補助療法については、対象として不適切であり、術前に使用すると血管新生阻害作用により出血して死に至る危険性があることを指摘した。
DTCに対する分子標的薬の適正な使用対象として、田原氏は、再発・転移症例であり外科切除・放射線療法の適応がなく、RAI不応、日常生活に支障を来す症状(痛み・呼吸苦・全身状態の悪化など)があり、急速な病勢進行により患者のQOL悪化の懸念がある患者と述べた。また、分子標的治療を開始する際は、常にメリットとデメリットを天秤にかけ、分子標的薬の適正な使用時期かどうか検討すべきとした。
分子標的薬のベネフィットを最大化するために
最後に田原氏は、甲状腺がんの分子標的薬のベネフィットを最大化するためには、適正使用のほか、チームによる細やかな管理、患者教育、薬物療法に精通した医師による管理が重要とし、患者さんにとっては「自分の担当医は薬物療法の管理に精通しているのか?」ということも念頭に置くべきではないか、と締めくくった。
(ケアネット 金沢 浩子)