妊孕性温存の選択肢となるか? 月内にも日本初の卵巣バンク開設

提供元:ケアネット

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公開日:2016/05/12

 

 できるだけ早い治療が望まれる悪性腫瘍。一方で、将来的に妊娠を望む女性にとって、化学療法などによる妊孕性の低下を受け入れることは非常に難しい問題だ。この課題に直面する女性たちの希望となりうるのか―。
 4月27日、不妊治療や生殖医療を専門とする医療法人レディースクリニック京野(宮城県仙台市、京野廣一理事長)が、運営する同法人の2クリニック(仙台市、東京都港区)に、卵巣組織を凍結保存する卵巣バンクを設立することを発表した。卵巣凍結保存や再移植は、これまでにも個々の医療施設単独で行われていたが、今般の取り組みでは、凍結卵巣組織を安定的に保存する技術を有する卵巣バンク施設と、卵巣摘出や移植、原疾患の治療を行う各専門施設が連携してネットワークを構築することにより“分業化”を実現。がんの治療を必要としながらも挙児希望のある女性に対し、妊孕性温存の選択肢を提供するとともに、治療機会の地域間格差を是正する狙い。国内では初めての試みとなる。実際に卵巣バンクが稼働するのは、日本産科婦人科学会の承認後からとなるが、5月中の開設を目指している。

 卵巣凍結保存の適応対象となるのは、悪性腫瘍(乳がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、血液がんなど)を有する患者。なかでも乳がんについては、抗がん剤治療によって閉経を早める可能性があるほか、日本人女性に多いとされるER陽性乳がんの場合、5~10年の長期にわたる内分泌療法によって、治療終了時には妊娠および出産が難しい年齢に差しかかることも、治療を受ける女性の大きな懸念材料となっている。こういった点からも、妊孕性温存の選択肢として新たに卵巣凍結が加わることはメリットと考えられる。なお白血病については、卵巣への侵襲性が高い化学療法が先行するため、適応外としている。

 卵巣バンクネットワークは、卵巣摘出および移植を行う医療施設として、東京、群馬、兵庫、沖縄、青森などに計13施設、凍結保存を連携して行う卵巣バンク施設としては、前述の医療法人レディースクリニック京野の2施設を含め計4施設が提携先となっている(2016年4月27日現在)。

 妊孕性温存のための生殖医療は、卵巣凍結のほかに卵子凍結と受精卵凍結(いずれも適応疾患は白血病、乳がん、悪性リンパ腫など)がある。卵巣凍結の最大のメリットは、自然妊娠が望める点だろう。卵子凍結と受精卵凍結は、ICSI(顕微授精)かIVF(体外受精)による授精・妊娠に限られるが、卵巣凍結はそれらに加え自然妊娠も可能となる。また、卵巣凍結は未婚・既婚を問わず、対象年齢が0~37歳以下で摘出可能(ただし凍結保存した卵巣の再移植は45歳未満)である。この点で、いずれも13歳以上を対象とし、未婚に限られる卵子凍結や既婚に限られる受精卵凍結よりも適応が広げられている。一方で、卵子凍結と受精卵凍結は融解後の生存率が90%と高く、この点については卵巣凍結(生存率50~80%)よりも優位である。

 卵巣凍結保存をめぐっては、保存した卵巣組織にがんが転移している可能性を100%排除できないという課題があるという。京野氏は「移植の際にがん細胞の再移入を完全に排除しきれないことが今後の課題であることは十分認識している。より精度の高い検査を実施し、できる限りの安全性の担保に努めたい」と述べた。

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(ケアネット 田上 優子)