2016年5月16日都内にて、「肺がん個別化医療を新たなステージに導く薬剤耐性獲得後の治療選択肢」と題するセミナーが開かれた(主催:アストラゼネカ株式会社)。
EGFR変異陽性の非小細胞肺がんの治療においてEGFR-TKI(EGFRチロシンキナーゼ阻害薬)は有効だが、1年ほどで生じる薬剤耐性が問題となっていた。この問題を解決するために開発されたのが、第3世代EGFR-TKI「タグリッソ錠」(一般名:オシメルチニブメシル酸塩)である。
演者である大江 裕一郎氏 (国立がん研究センター中央病院 副院長 呼吸器内科 呼吸器内科部長)は本セミナーにて「肺がん診療におけるタグリッソの役割」について講演した。
以下、セミナーの内容を記載する。
わずか7ヵ月で承認された、第3世代EGFR-TKI
既存のEGFR-TKIは治療開始1~1年半ほどで薬剤耐性が生じることが多く、機序として「T790M遺伝子変異」が最も多く報告されている。このT790M変異に特化して開発された薬が「タグリッソ」である。
これまでの第1、第2世代のEGFR-TKIは、腫瘍細胞のEGFR変異を阻害する力は強いものの、T790M耐性変異への阻害作用は弱かった。また、正常上皮細胞に多く存在する、野生型EGFRも阻害していた。
第3世代EGFR-TKIのタグリッソは、既存薬とは異なるユニークな構造を持ち、EGFR変異に加え、耐性要因となるEGFR T790Mに阻害活性を持つ。また、野生型EGFRへの阻害活性は従来薬よりも比較的弱いことが特徴だ。
日本でも優先審査品目に指定され、申請から7ヵ月という短い期間で製造販売承認を取得した。すでに、米国のNCCNガイドラインでは非小細胞肺がんの2次治療として推奨されており、日本でも次回のガイドライン改訂でこれに近い形になると予想される。
2次治療での奏効率は66.1%、PFSは9.7ヵ月
タグリッソの有効性を検討した試験に、AURA試験およびAURA2試験の統合解析がある。T790M変異陽性の非小細胞肺がん患者411例を対象に、タグリッソ80mgを1日1回経口投与した結果、奏効率は66.1%(95%CI:61.2~70.7%)、PFS中央値は9.7ヵ月であった。
本試験には日本人患者が約20%(81例/411例)含まれており、日本人患者のPFSは9.7ヵ月と有効性に差は認められていない。
継続した情報の集積が求められる
一方、同試験でグレード3以上の副作用発現率は日本人患者で多かった(日本人:24例/80例、全症例:48例/411例)。これが人種差によるものなのか、抗がん剤による前治療の影響なのか、についてはまだわかっていない。また、EGFR-TKIに限らず日本人は間質性肺炎を起こしやすく、この点には注意が必要である。また、タグリッソにおいてもすでに耐性の報告(C797S変異)があり、今後も全例調査による継続した情報の集積が求められる。
1万人のEGFR T790M陽性例にベネフィットを
日本における肺がん患者数は約7万5,000人。そのうちEGFR変異陽性は2万人で、さらに1万人がEGFR T790M陽性と想定される。タグリッソは、この1万人の患者にベネフィットをもたらす新薬と考えてよいだろう。
セミナーの後半、アストラゼネカ 代表取締役社長のガブリエル・ベルチ氏も登壇し、「ベネフィットを享受できる患者さんを増やすために、製薬企業として適切な情報提供を行っていきたい」とコメントした。
現在も1次治療を検討する「FLAURA試験」、術後補助療法を検討する「ADAURA試験」が進行中で、今後、タグリッソの活用の幅は広がっていくと予想される。
(ケアネット 佐藤 寿美)