生命に直結する疾患とまではいかないものの、日常生活の中で著しくQOLを低下させる症状、それが過活動膀胱(Overactive Bladder:OAB)である。男女ともに中高年層から年齢に正比例して増えているが、解剖学的性差により、女性のほうが悩ましさを抱えているという。
先月、このOABをテーマにしたプレスセミナーをファイザー株式会社が開催し、専門医2氏が講演した。このうち、日本排尿機能学会理事長の横山 修氏(福井大学医学部 泌尿器科学 教授)は、「患者さんに恥ずかしがらずに相談してもらえるよう、医療者側からの働きかけが必要」と述べた。
過活動膀胱の尿意切迫感、イメージは「いきなり赤信号」
OABは尿意切迫感を必須とした症状症候群であり、診断のポイントとしては、頻尿(睡眠時の夜間頻尿も含む)を伴う一方、切迫性尿失禁は多くのケースで併発しているものの、必須ではない。横山氏によると、主症状である尿意切迫感は、抑えられない尿意が急に起こることを意味し(病的膀胱知覚)、一般的に明確な尿意を感じる膀胱の蓄尿量が300mL程度に満たなくても、トイレまで我慢できないほどの差し迫った尿意を感じるという。
OABをめぐっては、2002年に全国の40歳以上の男女約1万人を対象に行った大規模疫学調査をベースに2012年時点の人口構成から推計すると、患者数は約1,040万人に上り、有症状率は全体の14.1%、つまり7人に1人の割合でOABの自覚症状があるとみられている。ところが、潜在的にこれほど多数の患者が見込まれるにもかかわらず、積極的な治療を行っていない人が多いのがこの疾患の特徴である。
OAB自体が生命に直結する疾患ではないものの、外出時や長時間かかる会議や移動などの際、常にトイレの心配が付きまとうため、日常生活への影響は大きい。ファイザーが今年3月、OABで医療機関を受診経験のある50歳以上の女性265人を対象に行ったインターネット調査によると、回答者の実に92.5%が切迫性尿失禁を経験していることがわかった。
また、「外出時で、常にトイレの場所を気にしないといけない」(78.1%)、「症状に対して、気分的に落ち込む・滅入ってしまう」(50.9%)といった日常生活への精神的な負担感の訴えや、「旅行や外出を控えてしまう」(60.0%)、「友人・知人との付き合いを控える」(40.0%)など、日常生活や社会活動を制限されている実情も浮き彫りになった。
横山氏によると、OABによるQOL低下の度合いは、糖尿病患者のそれに匹敵するとしたうえで、「症状の特異性により、うまく相談できない患者さんが多い可能性がある。視診や台上診なども不要なので、恥ずかしがらずに相談してもらえるよう医療者側からの働きかけが必要」と述べた。
「トイレが近い」という何気ない訴えにもヒントが
続いて、「女性における過活動膀胱相談の実際」と題して、巴 ひかる氏(東京女子医科大学 東医療センター 骨盤底機能再建診療部泌尿器科 教授)が講演した。
それによると、OABをめぐる治療事情には性差があり、男性の受診率が30%超であるのに対し、女性はわずか7.7%に留まっているという。この理由として巴氏は、男性は高年齢層になるに従い前立腺肥大を理由に受診する人が多く、その際にOABの症状についても診断されるケースが多い一方、女性の場合は、症状への恥ずかしさや年齢的に仕方がないという思い込みから、かかりつけ医にも打ち明けるのをためらう人が多いためではないか、という見解を示した。
しかしOABは治療が見込める疾患であり、診断がつけば、抗コリン薬やβ
3アドレナリン受容体作動薬などによる薬物療法をはじめ、膀胱訓練や骨盤底筋訓練などの行動療法、電気刺激療法などの神経変調療法により症状の改善が期待できる。巴氏は、「OABは自覚症状症候群なので、問診や調査票でも診断が可能である。患者さんの『最近トイレが近い』という何気ない訴えの中にもOAB診断のヒントがあるので、注意深く問診をして、患者さんのQOL向上につなげてほしい」と述べた。
(ケアネット 田上 優子)