日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会は、今月『慢性便秘症診療ガイドライン』を発刊した。高齢者を中心に有症状者は増え続け、その数は1,000万人超といわれる慢性便秘だが、これまで本邦においては診断や治療に関する明瞭な指針がなかった。本ガイドラインでは、診療に当たる医師らのコンセンサスを図るべく、「便秘」を定義。治療についてはClinical Question(CQ)を設定し、ステートメントとともにエビデンスレベルと推奨度を示した。以下でその概略を紹介する。
「状態名」としての便秘を改めて定義
排便習慣には個人差が大きく、患者が「便秘」という言葉で意味する内容もさまざまだが、本ガイドラインでは、「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状況」を便秘と定義。また、便秘症については、「便秘による症状が現れ、検査や治療を必要とする場合であり、その症状として排便回数減少によるもの(腹痛、腹部膨満感など)、硬便によるもの(排便困難、過度の怒責など)と便排出障害によるもの(軟便でも排便困難、過度の怒責、残便感とそのための頻回便など)がある」としている。
一方、何らかの理由で経口摂取量が不十分な場合は排便回数が減少するのは当然であり、この理由で排便の回数や量が少ないのは真の便秘ではない。また、残便感を訴える患者の中には強迫観念のために、「本来体外に排出すべき糞便」が直腸内に存在しないにもかかわらず、残便感(偽の便意)を訴え、過度に怒責したり、頻回にトイレに行ったりする排便強迫神経症も少なからず存在し、そのような患者も真の便秘症とはいえない、としている。
治療法をエビデンスレベルと推奨度で評価
治療については、生活習慣の改善や薬物療法などの保存的治療に関するCQを11項目、順行性洗腸法や大腸切除術などの外科的治療に関するCQを3項目設定。それぞれにステートメントと、関連する文献エビデンスを評価したエビデンスレベル(A~D)と、推奨度(1:強い推奨、2:弱い推奨)を表記している。
このうち、浸透圧性下剤の使用については「慢性便秘症に対して有用であり使用することを推奨」している(推奨度1、エビデンスレベルA)。ただし高齢者については、腎機能が正常な場合も含めて、マグネシウムを含む塩類下剤は「慎重投与」とし、定期的に血清マグネシウム濃度を測定するよう注意を呼び掛けている。
上皮機能変容薬についても、本ガイドラインでは「有用であり、使用することを推奨する」としている(推奨度1、エビデンスレベルA)。ただし、ルビプロストンについては「妊婦には投与禁忌であり、若年女性に生じやすい悪心の副作用にも十分に注意する必要がある」としている。
一方、便秘型過敏性腸症候群の治療薬として本年、保険適応を取得したリナクロチドについては、「副作用として下痢がもっとも多く報告されており、腹痛、鼓腸なども報告されているが、深刻な副作用はこれまでに報告されていない」としたうえで、「日本では市販後間もないため、内服後の症状に注意して用いる必要がある」としている。
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(ケアネット 鄭 優子)