世界的に見れば、罹患率・死亡率共に減少傾向にあるとはいえ、依然、最も診断されているがんであり、死因としては第3位の胃がん。今月、都内で開かれたプレスセミナー(ブリストル・マイヤーズスクイブ株式会社主催)では、津金 昌一郎氏(国立がん研究センター 社会と健康研究センター長)が、ピロリ菌をはじめとする胃がんのリスク因子と予防について講演した。
環境要因?日本で胃がんが多い地域、少ない地域
講演で津金氏が示した日本の統計データによると、全がん種で死亡した人は、2015年に37万人(男性22万人、女性15万人)で、このうち胃がんで死亡した人は4万6,000人(男性3万人、女性1.5万人)となっており、肺、大腸について第3位だった。また罹患率については、新たに診断されたのは、2013年時点のデータで、全がん種で推定86万例(男性50万例、女性36万例)。このうち胃がんと診断されたのは推定13万例(男性9万例、女性4万例)となっており、最も多かった。ただ、年次推移を見ると、罹患率の減少と生存率の向上により、死亡率は確実に減少傾向にある。
また、患者の分布を見ると、東北地方の日本海側地域に多く、九州・沖縄地域で少ない傾向があるという。津金氏は、「食生活を含めた生活習慣などの環境要因が、遺伝要因よりも影響が大きいのでは」と述べた。
3つの習慣の見直しで胃がん予防を
では、胃がんリスクとして挙げられるのは何か。日本人のエビデンスに基づいた研究によると、「確実」とみられているリスク要因は、ピロリ菌感染と喫煙であり、「ほぼ確実」なのは塩分、確実とまではいかないが可能性が示唆されているのは、野菜や果物の低摂取である。
このうちピロリ菌については、幼児期にピロリ菌を保有する大人から食べ物の口移しなどによる感染経路が知られており、本人以外の第三者の注意や心掛けがなければ防ぎようがない側面がある。一方で、喫煙や塩分や塩蔵食品(漬物や塩辛、干物など)の高摂取、野菜や果物の低摂取については、患者の自助努力において大いに改善の余地がある生活や食事の習慣である。とりわけ喫煙は、非喫煙者に比べ胃がんリスクが約1.6倍増加することも明らかになっており、禁煙を勧めることが何よりのがん防止になると津金氏は強調する。
リスクは知るべきだが、ピロリ菌除菌は「成人以降で」
胃がんの確実なリスク因子であるピロリ菌感染の有無は、尿素呼気試験のほか、便や尿、血液の検査などで簡便にわかるようになった。日本では、2000年に「胃潰瘍、十二指腸潰瘍」に対し、ピロリ菌の感染診断および治療が保険適用となり、13年には「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」に対するピロリ菌除菌も保険適用となった。
胃がんのリスク分類は4つの分類(ABC分類)が知られている。これは、ピロリ菌感染の有無と、萎縮性胃炎の有無(血中のペプシノーゲン値で判別)の組み合わせによる分類で、ピロリ菌感染(-)/胃粘膜の萎縮なしは「A」、ピロリ菌感染(+)/胃粘膜の萎縮なしは「B」、ピロリ菌感染(+)/胃粘膜の萎縮進行は「C」、ピロリ菌感染(+)/胃粘膜の萎縮が高度に進行は「D」と評価される。
また、国立がん研究センターが作成した、今後10年の胃がん罹患リスクを予測する
診断ツールも有用である。年齢、性別、喫煙習慣、食習慣、胃がんの家族歴、それにピロリ菌感染の有無を入力すれば、上記のABC分類のいずれに該当するかを即座に知ることができる。津金氏は、こうした手軽なツールも活用して、患者自身に胃がん予防に対する意識付けを促すことの必要性を述べる一方、リスクを低減させるピロリ菌除菌については、その有効性を認めつつ、「小児期に抗生剤を使うことが正しいのか不明な点も多い。検査や除菌、自治体や親に強制されるべきものではなく、成人になって自らの判断で行うべきと考える」と私見を述べた。
(ケアネット 鄭 優子)