効果に比べ有害事象のリスクが高い薬剤は高齢者に向いているといえず、これらの薬剤はPIM(Potentially Inappropriate Medication)と呼ばれている。一部の抗うつ薬はPIMであると考えられるが、抗うつ薬とその後の認知症との関連については、これまでの研究で明らかになっていない。ドイツ・ボン大学のKathrin Heser氏らは、抗うつ薬(とくにPriscusリスト[ドイツ版のビアーズリスト]でPIMとみなされている抗うつ薬)の服用が、認知症発症を予測するかについて検討を行った。Journal of affective disorders誌2018年1月15日号の報告。
非認知症のプライマリケア患者3,239例(平均年齢:79.62歳)におけるプロスペクティブコホート研究のデータを用いて、Cox比例ハザードモデルの計算を行った。12年間で8回以上のフォローアップにおけるその後の認知症リスクは、抗うつ薬服用および共変量に応じて推定した。
主な結果は以下のとおり。
・抗うつ薬服用は、その後の認知症リスク増加と関連が認められた(HR:1.53、95%CI:1.16~2.02、p=0.003[年齢、性別、教育で調整後])。
・年齢、性別、教育、うつ症状で調整したモデルにおいて、PIMとみなされている抗うつ薬は、その後の認知症リスク増加と関連が認められた(HR:1.49、95%CI:1.06~2.10、p=0.021)。一方、その他の抗うつ薬は、関連が認められなかった(HR:1.04、95%CI:0.66~1.66、p=0.863)。
・ベースライン時に全体的な認知機能がコントロールされた場合、有意な関連は消失した。
著者らは「選択バイアスや自己報告による薬物評価など、方法論的な限界が本結果に影響を及ぼした可能性がある」としながらも、「PIMとみなされる抗うつ薬だけが、その後の認知症リスク増加と関連していた。これは、抗コリン作用が、原因の可能性がある。そして、この関連は、ベースライン時の全体的な認知機能を統計学的にコントロールした後に消失した。そのため、医師は可能な限り、高齢者へのPIMとみなされる抗うつ薬使用を避けるべきである」としている。
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(鷹野 敦夫)