2018年5月29日、山口大学(学長:岡 正朗)は、都内において4月に設立された「AIシステム医学・医療研究教育センター」(以下「AISMEC」と略す)に関する記者発表会を行った。
冒頭、岡氏があいさつし、今後の医療の拡大にAISMECが果たす役割に期待を寄せた。また、大学では学生全員に数理情報の講座を履修させ、その能力を向上させる人材育成にも取り組んでいることを強調した。
次にセンター長に就任した浅井 義之氏(同大学大学院医学系研究科 教授)が、AISMECの概要、現在の取り組み、今後の展望について説明を行った。
AISMECは、人工知能(AI)とシステムバイオロジーを融和させ、「基礎医学研究の推進」「新しい医療技術の開発」「データサイエンス医学の人材育成」へ展開することを目的に設立されたセンターである。そして、AISMECで使われるAIは「特化型AI」と言われ、膨大なデータの中からヒトの眼では見つけられない特徴を見つけることができ、知識を発見することで「病気の早期発見」「治療効果の予測」が期待されている。また、システムバイオロジーは、膨大な人体の生理データと生理機能をコンピュータシミュレーションを用い、生命機能のダイナミクスを捉えて、知識を広げ、深めることで「発症メカニズムの深い理解」「新治療技術・新薬の開発」が見込まれている。
具体的にAISMECでは、「システムバイオインフォマティクス講座」(システム医学の推進/医用AIでデータ解析)、「医療情報判断学講座」(病院情報システムデータの利活用)、「公衆衛生・予防医学講座」(個別予防医療/先制医療の実践)、「システムズ再生病態医化学講座」(実験システム医学の推進)の4つの講座の技術を核に融合し、所期の目的を達成するとともに、山口大学医学部附属病院の臨床講座、医学系研究科の基礎講座、さらに地方自治体など学内外のエキスパートとも連携していく予定である。
次世代のデータサイエンス医師を育成
進行しているプロジェクトとしては、「骨髄移植後の拒絶反応のリスク予測」「薬剤による不整脈発生リスク予測」ほか5つがあり、これらには学生も研究に参加しているほか、すでにバイオマーカーの探索では実用化されたものもあり、複数のマーカーが探索されているという。
浅井氏は、「今後、AISMECでは、データサイエンスに精通した医療人の育成と医療に精通したデータサイエンティストの育成を通じて、世界に貢献できる研究成果の発表、人材の提供を行い、次世代のデータサイエンス医師を世界に羽ばたかせたい」と期待を語った。
最後に同センターの顧問に就任した北野 宏明氏(ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長)が、「多層解析が主流となった現代の医療ではデータを深堀する必要があり、良いデータの集積にすべてがかかっている。AISMECの設立で大学、病院から質、量ともに良いデータの収集に期待を持つことができる。また、データサイエンスに強い人材の育成にも積極的な施策により成功が期待される。世界でもまれな取り組みなので、今後の挑戦を見守っていきたい」と発表会を締めた。
■参考
山口大学AIシステム医学・医療研究教育センター
(ケアネット 稲川 進)