気管切開チューブ挿入患者のケアには常に注意を要するが、とくに気管切開術後早期*のチューブ交換時に、再挿入が困難になるリスクが高いことから、日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)では、この時期のチューブ逸脱・迷入による事故防止のための提言(医療事故の再発防止に向けた提言 第4号)を公表している(6月5日)。逸脱を防ぐための移動・体位変換時の注意事項や、逸脱・迷入が生じてしまったときの具体的対応などについて、以下の7つの提言が示された。
*本提言では、気管切開孔が安定するまでの時期とし、気管切開術当日からおよそ2 週間程度と定義。そのうえで、「術後 2 週間を過ぎれば生じないということではない」と注意喚起している。
提言1(リスクの把握):気管切開術後早期(およそ 2 週間程度)は、気管切開チューブの逸脱・迷入により生命の危険に陥りやすいことをすべての医療従事者が認識する。
提言2 (気管切開術):待機的気管切開術は、急変対応可能な環境で、気管切開チューブ逸脱・迷入に関する患者ごとの危険性を考慮した方法で実施する。
提言3(気管切開チューブ逸脱に注意した患者移動・体位変換):気管切開術後早期の患者移動や体位変換は、気管切開チューブに直接張力がかかる人工呼吸器回路や接続器具を可能な限り外して実施する。
提言4 (気管切開チューブ逸脱の察知・確認):「カフが見える」「呼吸状態の異常」「人工呼吸器の作動異常」を認めた場合は、気管切開チューブ逸脱・迷入を疑い、吸引カテーテルの挿入などで、気管切開チューブが気管内に留置されているかどうかを確認する。
提言5 (気管切開チューブ逸脱・迷入が生じたときの対応)気管切開術後早期に気管切開チューブ逸脱・迷入が生じた場合は、気管切開孔からの再挿入に固執せず、経口でのバッグバルブマスクによる換気や経口挿管に切り替える。
提言6 (気管切開チューブの交換時期):気管切開術後早期の気管切開チューブ交換は、気管切開チューブの閉塞やカフの損傷などが生じていなければ、気管切開孔が安定するまで避けることが望ましい。
提言7(院内体制の整備):気管切開術後早期の患者管理および気管切開チューブ逸脱・迷入時の具体的な対応策を整備し、安全教育を推進する。
この提言は、医療事故調査制度のもと収集した院内調査結果報告書を整理・分析し、再発防止策としてまとめているもの。これまでに「中心静脈穿刺合併症」、「急性肺血栓塞栓症」、「注射剤によるアナフィラキシー」をテーマとした各号が公表されている。
今回の第4号では、同制度開始の2015年10月から2018年2 月までの期間に、同機構に提出された院内調査結果報告書607件のうち、「気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例」」として報告された5事例を分析。“死亡に至ることを回避する”という視点で、同様の事象の再発防止を目的としてまとめられている。
■参考
日本医療安全調査機構:医療事故の再発防止に向けた提言 第4号
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注射剤のアナフィラキシーについて提言 医療安全調査機構
中心静脈穿刺の事故防止に向けて提言公表 医療安全調査機構
(ケアネット 遊佐 なつみ)