英国の老人ホームや介護施設では疥癬の発生がよくみられるが、診断が遅れやすく、制御するのが困難である。老人ホームにおける疥癬の臨床症状は、臨床医になじみがある古典的記述とは異なることを、英国・ブライトン・サセックスメディカルスクールのJackie A. Cassell氏らが明らかにした。著者は、「この違いには、高齢者という脆弱な集団における、認識の遅れと最適状態には及ばない管理がおそらく関与している」と述べたうえで、「ダーモスコピーと顕微鏡検査はほとんど役に立たなかった。高齢者、とくに認知症を持つ人々は、疥癬の症状に対する訴え方が記述とは異なることを医療スタッフが認識し、徹底的な検査を行うべきである」とまとめている。Lancet Infectious Diseases誌2018年8月号掲載の報告。
研究グループは、2014~15年に英国南東部の老人ホームにて、疥癬の臨床的特徴、疫学および発生の転帰について前向き観察研究を行い、英国公衆衛生庁のhealth protection teamに疥癬の発生を報告した。疥癬の発生は、1施設で入居者またはスタッフのうち2例以上が感染した場合と定義された。インフォームド・コンセントを得られたすべての患者を対象とし、家族または指名された職員が研究への参加を認めた場合は、認知症患者も含まれた。
皮膚科医が初回往診時に診察し、その地域のprotection teamごとの手引きに従って駆虫薬を用いた2つの集団治療を行い、6週後に再び往診した。疥癬は、必要に応じてダーモスコピーおよび顕微鏡検査を用い、感染確定(definite)、感染を強く疑う(probable)または感染の疑い(possible)といった、あらかじめ決められた症例定義により診断した。
主な結果は以下のとおり。
・2014年1月23日~2015年4月13日に、疥癬が発生した10施設の入居者230例が検査を受けた。
・年齢中央値は86.9歳(IQR:81.5~92.3)、174例(76%)が女性、157例(68%)が認知症であった。
・61例(27%)は疥癬の感染確定/強く疑う/疑いに該当し、うち3例は痂皮型疥癬であった。
・身体的兆候は、古典的な症例と明らかに異なっていた。
・疥癬と診断された61例中31例(51%)は無症状であり、疥癬トンネルが認められたのはたったの25例(41%)であった。
・ダーモスコピーでダニが可視化されたのは7例(11%)で、さらに3例(5%)は顕微鏡検査によって確認された。
・35例(57%)は、通常は覆われている部分にのみ疥癬の兆候があった。
・認知症は、特定された疥癬診断の唯一のリスク因子であった(オッズ比:2.37、95%信頼区間[CI]:1.38~4.07)。
・追跡調査で、初めに疥癬と診断された50例が検査された。疥癬の新しい症例は検出されなかったが、10例で感染の持続が認められた。
(ケアネット)